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Jablogy

Sound, Language, and Human

大和田俊之 2011 『アメリカ音楽史──ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』 講談社選書メチエ (1)

大和田俊之『アメリカ音楽史──ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』の紹介をしたいと思います。長くなったので3回にわけてお届けします。

■本書の位置づけ

*キーワード <擬装> について

アニメの人気作になぞらえて「今季の覇権」本とすら評される本書。すべてのページ、ほとんどすべての段落がおもしろく発見があるという驚異的なことになってます。

著者が本書で試みようとしているのは、アメリカ音楽に通底する欲望の形式として <擬装> が存在すること、すなわち「アメリカのポピュラー音楽を駆動してきたのは『他人になりすます』欲望である」(p.2)ことを論証することです。

しかし、すべての章で「他人になりすます」ことが扱われているわけではなく、むしろ自己イメージ演出に関わることが主題の部分もあります。

つまり、音楽によるアイデンティティ・ポリティクスや他者イメージの創造といった問題がまず全般としてあって、そうしたポリティクスにおける自己イメージ演出の一環として「他者になりすますこと」=<擬装>があるのだと理解しておいたほうが、本書をスムーズに読み進められるように思います。

*理論的背景

輪島裕介『創られた「日本の心」神話』*1でも「演歌」ジャンルの成立期に、過去を再構成することによってジャンルイメージが形成されていったことが論じられていました。

この見方ははいわゆる「創られた伝統」*2につならるものだと私は考えます。

本書でもこれと似た視角からさまざまなアメリカ音楽のジャンルイメージ、とくに人種的アイデンティティに関わるイメージの形成が論じられています。


加えて、『ニュー・ジャズ・スタディーズ』でも示された「社会的・歴史的変容重視、アフリカン・アメリカンの歴史重視/二項対立的人種観の回避、進化論的歴史観の否定、ミュージシャン神話の解体、メディアの機能に対する考察」といった視座を著者はとっていて、それにより議論が新鮮なものになっているといえます*3

このニュー・ジャズ・スタディーズ的な視座において乗り越えの対象となっている、古い説明のタイプを知っているといっそう本書を楽しめるかもしれません。

例えば三井徹の『黒人ブルースの現代』*4や、ウィントン・マルサリス監修、ケン・バーンズ監督によるジャズ史ドキュメンタリーフィルム『Jazz』*5などがあげられるでしょう。

続き(2)へ

*1:輪島裕介 2010 『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』 光文社新書、当ブログ: http://d.hatena.ne.jp/ja_bra_af_cu/20110603/1307108745

*2:Hobsbawm, Eric., Ranger, Terence. ed. 1983 The Invention of Tradition. UK: Cambridge University Press. (エリック・ホブズボウム+テレンス・レンジャー編著、前川啓治・梶原景昭訳 1992 『創られた伝統』 紀伊國屋書店 [文化人類学叢書])

*3:マイク・モラスキー 2010 「イントロダクション――ジャズ評論を超えて」 宮脇俊文+細川周平マイク・モラスキー編著 『ニュージャズスタディーズ ―ジャズ研究の新たな領域へ―(成蹊大学アジア太平洋研究センター叢書)』 アルテスパブリッシング

*4:三井徹 1977 『黒人ブルースの現代』 音楽之友社 [ON BOOKS (新書)]

*5:Burns, Ken. 2000 Jazz: A History of America's Music. Public Broadcasting Service. [日本語版DVD 2004 ジェネオン・エンターテイメント]