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Jablogy

Sound, Language, and Human

大和田俊之 2011 『アメリカ音楽史──ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』 講談社選書メチエ (2)

music study book

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■各章のダイジェスト

各章のテーマや興味深いトピックを一言ずつふれるとつぎのような感じです。

第1章 黒と白の弁証法 ―― 擬装するミンストレル・ショウ

 ミンストレル・ショーにおいてユダヤ系やアイルランド系が「黒人」を <擬装> することによって対概念としての「白人」のまとまりを形成し、自らの立場をも <擬装> した。

第2章 憂鬱の正統性 ―― ブルースの発掘

 ブルースの発生期には白人も黒人もプレイしており、ヴォードヴィルでのソフィスティケートされたスタイルとの交流もよくあった。カントリーブルースが黒人のフォークロアとして真正性を持ち、レコードのジャンルとして「レイス・ミュージック」が成立していく。

第3章 アメリカーナの政治学 ―― ヒルビリー/カントリー・ミュージック

「レイスミュージック」の否定項として白人の雑多な音楽が「カントリー」という保守的白人のアイデンティティを代表する音楽と一括りにみなされるようになっていった。

第4章 規格の創造性 ―― ティンパン・アレーと都市音楽の黎明

 19世紀末のカトリック系やユダヤ系の「新移民」が29世紀に巨大化するエンターテインメント業界の担い手となっていき、「ティン・パン・アレー」の作曲家となっていく。
 ティン・パン・アレーの徹底した分業体制はまさにフォーディズム的だが、フォード自身からはユダヤ的な音楽として非難された。

第5章 音楽のデモクラシー ―― スウィング・ジャズの速度

 現在では黒人音楽のイメージがあるジャズだが、20〜30年代は人種の指標を超えた音楽としてひろまっていて、スウィング・ジャズはソロ=個の自由とアンサンブル=多の規律からなる民主主義国アメリカの国民的音楽になった。

第6章 歴史の不可能性 ―― ジャズのモダニズム

 断絶的な革命と思われているスウィングからビバップへの「進化」は実際には連続的・漸進的にすすみ*1、<即興性> を前面化することで自律的芸術・「エスニシティを超えた普遍的=モダンな価値を内在する音楽」(p.117)となった。
 バップ・ハードバップの黒人性が強調されるのは50年代後半以降であり、楽理的に見てより「黒人的」といえるのはむしろマイルスのはじめたモードスタイルである。

第7章 若者の誕生 ―― リズム&ブルースとロックンロール

「レイスレコード」のかわりに用いられはじめた黒人向け音楽ジャンル名「リズム・アンド・ブルース」がラジオによって人種の枠を超え白人も聴き、プレイするようになる。そのようなジャンルのクロスオーバーのもと「人種混淆的」な音楽ロックンロールが誕生する。
 ロックンロール以前に「若者」は存在しない。「政治/文化/経済的なカテゴリーとしての『若者』はこの時初めて誕生したのだ」(p.157)。

第8章 空間性と匿名性 ―― ロック/ポップスのサウンド・デザイン

 天才的ミュージシャンがいないため従来空白の期間とされてきた、ロックンロール衰退とブリティッシュ・インヴェイジョンのあいだの時期をつなぐ音楽としてブリル・ビルディング・サウンドがあることを指摘。
 楽曲中心のブリル・ビルディング・サウンドは「アーティスト」中心のロックが流行の中心となって衰退したが、モータウンはロックの「アーティスト」中心に適応してヒットを飛ばした。
 ボブ・ディランがエレクトリック・ギターを手にすることでフォークの反体制・反近代・反商業主義といったイデオロギーがロックに流入し、ミュージシャンは出自を大衆的なものだと <擬装> したりする。

第9章 プラネタリー・トランスヴェスティズム ―― ソウル/ファンクのフューチャリズム

 ユートピア思想の変奏としての「ここではないどこか」すなわち憧れや理想の対象となる「未来」と「過去」がアフロフューチャリズムには同居している。
 サン・ラ、P-ファンク、アース・ウィンド・アンド・ファイアーなどにより、未来のイメージとしては宇宙開発が取り入れられ、過去の栄光としてはアフリカ大陸がもっとも輝いていたとされるエジプト文明が選ばれた。
 こうしてアフリカン・アメリカンは惑星的他者をも <擬装> しつつ、過去を何度も書き換えることによって未来を創り歴史を刻む。

第10章 音楽の標本化とポストモダニズム ―― ディスコ、パンク、ヒップホップ

「激動」の60年代に対して「内省の時代」と言われる70年代にも、「内省」とは程遠いエネルギーを持った音楽があった。文化人の集まる場所となったイースト・ビレッジではトランスジェンダーの文化が興隆し、ゲイを客層とするディスコが流行した。
 ギャングスタのラッパーでも実際にギャングとして活動していなかったものも多く(実際に活動したオリジナルギャングスタに対し「スタジオギャングスタ」と呼ばれる)、そのイメージは「ギャング映画」の系譜に連なるものである。しかもそうしたイメージが <擬装> されるのは購買層の白人ティーンの欲望に応えるという面もある。

第11章 ヒスパニック・インヴェイジョン ―― アメリカ音楽のラテン化

 ラテン/ヒスパニック系は人口数においてもアフリカ系を上回ってきており、言論においても重要性を増している。タンゴ・ルンバ・マンボ・ブーガルー・ボサノバ・サルサと合衆国におけるラテン音楽の流行は続いており、影響は大きい。
 カントリーブルースのギターの使用やジェリー・ロール・モートンのジャズにもラテンの影響は及んでいる。合衆国という国家の枠組みや黒人と白人という二項対立によってのみ音楽を考えるのでなく、ラテンやユダヤといった第三項以上を考慮に入れるべきである。


以上のように、アメリカにおける様々なエスニシティをもった人々が自己や他者のイメージを <擬装> していく歴史のダイナミックな過程が描かれています。

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*1:芸術的な理由からだけでなくレコード産業の事情も作用していることが指摘されている