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Jablogy

Sound, Language, and Human

感想:『ユダヤ・エリート』、『中国の旅』、『子どもはことばをからだで覚える』

音楽とは直接かかわらない本の感想をまとめて記しておきます。

鈴木輝二 2003 『ユダヤ・エリート ―― アメリカへ渡った東方ユダヤ人』 中公新書

アメリカのポップスにも大きく影響を与えたユダヤ人移民についてすこし知りたいとおもい積読になっていたのを崩した。

中世の身分差別により耕作する土地を持てなかったため金融や医学などの職に主に就いたとか、啓蒙思想によって開放が進み、分散して居住して情報に強かったことを生かして経済的に成功していったなど、歴史的な流れがよくつかめた。

教養の面でもラビによる宗教教育やタルムード講和などがあって幼いころから知的に鍛えられているのがよくわかる。経済学者のサマーズなどは幼時からヘブライ語やラテン語の読み書きを学んでいたという(p.122)そして医師・弁護士・学者といった職業が比較的能力主義よりだったこともあって、それらの職業にユダヤ人が多くなったらしい。

後半は諸人物のバイオグラフィーを列挙している感じであまり議論的ではなかったが、並み居る大学者のほとんどがユダヤ系であることに改めて驚かされる。スピノザベルクソン、E・デュルケム、マックス・ヴェーバーマルクスフロイトレヴィ=ストロース、ヤコブソン、チョムスキーアインシュタインシェーンベルクストラヴィンスキーヴィトゲンシュタインベンヤミン、ハンナ・アーレントシュンペーター、ドラッカー etc...

普段はただ大学者でありその理論や学説だけが評価されているので意識に上らないが、20世紀の知的なパラダイムを塗り替えるような巨大な知性の多くがユダヤ系であることは、背景文化を含めて意識されてよいのかもしれない。

本多勝一 1981 『中国の旅』 朝日新聞社

ネット上ではあまりいい評価を受けていない本だけれど、興味深く読んだ。
事実関係や別な視点からの考察はいつか別な本で補いたい。
気になった点をひとつあげておく。

植民地主義における人間=資源

日本軍の残虐はかれらが愚かで残忍だったからではないだろう。かれらは実に合理的にふるまった。中国人を人間ではなく単なる労働力・富を生む資源とみなすという前提において。奴隷であれば財産だから丁寧に扱いもするが、彼らは資源である(アメリカ合衆国において、奴隷解放後の黒人がより厳しい境遇に追い込まれたのを思い起こす)。最大限効率良く使い潰すのが適切で合理的な資源管理というものだったのだろう。

結局、マルクス主義はアンチ資本主義というよりも、アンチ帝国主義・アンチ植民地主義として機能したのかもしれない。日本軍の横暴や搾取に苦しめられてきた中国の一般人にとってみれば、毛沢東・八路軍はたしかに解放の英雄だったのだろう。

正高信男 2001 『子供はことばをからだで覚える』 中公新書

『ケータイを持ったサル』がベストセラーになった正高信男の研究方面のまとめ的な本。子供の言語習得に音楽と身体行動が大きくかかわっていることをしめす。

特に第一章での新生児が不協和音がおおい曲よりも、協和音がおおいモーツァルトの曲に対してつよい選好反応を示した実験が興味深い。文化的な訓練をまったく受けていない新生児がそういった反応を示す以上、協和音を好む性質が人間に普遍的である可能性があるのだから。

といっても、文化的な美学はもっと複雑なものであって、不協和音や雑音まじりの音であっても美しく感じる場合もあるのはよくしられているけれど。子供は甘いものが好きで、大人になるにつれいろいろな味が楽しめるようになるのに似ている、といえるかもしれない。

後半の章では、言語の意味習得に指差しやジェスチャーといった身体行動が関与していて、場合によっては必要条件となっていることが示されている。人文諸学において知性偏重を脱し身体を考慮に入れるようになってきているという点からも興味深い。