Jablogy

Sound, Language, and Human

『同性愛と異性愛』、『哭きうたの民族誌』、『メイキング人類学』

長年の積ん読を少し崩したので簡単なメモを。

風間孝・河口和也 2010 『同性愛と異性愛岩波新書

同性愛と異性愛 (岩波新書)

同性愛と異性愛 (岩波新書)

Twitterで教えていただいた岩波新書のジェンダー論入門。

基本的な概念(性的志向と性的嗜好の違い、ジェンダーの多値性など)についての簡潔でわかりやすく、かつ権力的な関係性への目配りが効いた説明は、入門者の最初の一冊として適切と感じました。

何よりゲイ・フォビアの実際について、歴史的に起こった実例を引きながら鮮明に描いているのが、ヘイトを受ける当事者ならない私にはとても勉強になりました。

2000年2月に都立夢の島公園*1で30代の男性が少年グループに殺害された「ヘイト・クライム」の事件では、加害者の少年がホモセクシャルを道徳的な悪と捉え、それに懲罰を加えるというロジックで苛烈な暴力を振るったことが指摘されていました。

人は共同体内部の基準によるサンクションの行使において共同体の規範を肯定し社会を安定化させる。そうして正義に酔っている時こそ人は恐ろしいほど暴力的になる。こちらの論文「グレーゾーンへ(38) 社会は逸脱者を必要とする① ニート論まとめ」と合わせて考えると、いじめ、炎上、ホモ・フォビア、ショービニズム、人種差別などを一つに貫く論理・社会心理の存在が示唆されるように思いました。

なので、私刑が不正であることをコモンセンスにしていくべきなのでしょうけれど、それにはどうしたものか・・・難しい課題です。

酒井正子 2005 『奄美・沖縄 哭きうたの民族誌』 小学館

奄美・沖縄 哭きうたの民族誌

奄美・沖縄 哭きうたの民族誌

琉球弧に伝わる泣きの風習における歌や歌がけについての広範な事例紹介といった趣きの一冊。

どこでどんな事例があったかを描写してそれに推測的なコメントを加えるという (民俗学・比較音楽学的なと言える?) スタイルの記述で、現地の人々のリアリティを読み取る「厚い記述」にはあまりなっていないように感じました。

個人的には様々な制度と感情の関係性が気になりました。

洗骨までに体が朽ちていくのを見るのはつらそうだし、一方できれいにした骨をみることでやっと「あきらめがつく」。また火葬されるのは「情けがない」けれど、焼いた骨をみるとスッキリするといいます。親しいものが亡くなったときも恋人と別れるときも、歌を・情けをかけ別離の苦しみを託すということがある。

人の生において避けがたい喪失に対して、そこで生まれる感情を制度によって半ば導くことで、適切に対処・処理し受け止めてその後を生きてゆけるようにする。「泣き」はそんな無意識の叡智なのかもしれない、などと想像しました。

大田好信・浜本満編 2005 『メイキング人類学』 世界思想社

メイキング文化人類学

メイキング文化人類学

著名な文化人類学の学者たちが、それぞの学説をどのように生み出してきたかを、特にフィールドワークとの関係に注目して読み解いた本。まさに映画などの「メイキング」映像と同様というわけです。

それだけに、なにかほかの概説書などで、それぞれの学説について大まかでもいいので予備知識があった方が、本書をより楽しめるかもしれません。

それぞれの章は独立性が強く、単品の論文としてバラバラに読むこともできますが、一方で隠れた全体の流れもあるように思いました。

それは異文化への視線の変化とでもいうべきものです。異境の「奇妙なもの」としての他者から、一つのまとまりを持った全体としての異文化を客観的に観察する視座へ。そうしたスタティックな理解の仕方から、人々が意味するやり方の解釈を不断に・再帰的に・動的に行っていく現代のスタイルへ。人類学が異文化を見る目はこのように変化したと捉えられるようです。

*1:ハッテン場として知られていた