JASPMワークショップ「ポピュラー音楽の美学と存在論 : 今井論文をめぐるオープン・ディスカッション」UST中継の感想
日本ポピュラー音楽学会のワークショップがUSTで中継されていたので視聴させていただきました。中継してくださった八田真行さん(@mhatta)*1ありがとうございました。
自分用の記録も兼ねて公開されている関係資料をまとめておきます。
- 議論の元になった今井さんの論文
- 吉田寛さんの関連する論文
- 議論後の今井さんの整理
- 司会の谷口文和さんが論文解題をするのに使われたスライド
- 谷口さんが反省ニコ生をされたニコニコミュニティ
- 森功次さんによるブログでのコメント記事
内容的には高度に専門的な哲学の問題が扱われており、私の力量では十分についていくことはできませんでしたが、今回のために事前に今井さんの論文を予習しことで、いままでよくわかっていなかった*2存在者・普遍者・例化、タイプ・トークンなどの存在論の用語がようやくある程度理解でき、勉強になりました。
その程度のレベルなので的外れになるかもしれませんが、議論を聴いていて気になった点を幾つか記しておきます。
ひとつは、音楽実践での言葉の使われ方と研究側での使い方に対するスタンスの違いのようなものを感じた点です。
増田さんはさまざまな立場の人々が行う音楽実践・言説における真正性認定の力学がおこる場というかきっかけとして作品概念を捉えようとされているように思えました。よって、作品という言葉は例えばライブ文化とディスク文化で別の使われ方をする。これはある意味でフォークタームの使われ方を考察する文化人類学的な見方にも近いのではないか。
一方、今井さんの議論は聴取の実践に内在する構造をあきらかにし、研究者側が実践を分析するための概念としてトラックなどの概念を整備しようとすることに重点を置いているように聴こえました。作品概念が複数あるよりはそれを使わずに楽曲・演奏・トラックで行くべきだと今井さんがいったときなどのすれ違い感はそのあたりにあるのかな、などとも思ました。
もうひとつは、タイプ-トークンの区分のあり方です。今井さんの分け方ではライブ鑑賞においては《楽曲》と《演奏》がタイプとトークンの関係に、レコード鑑賞においては《トラック》と《再生》、および《楽曲》と《再生》がタイプとトークンの関係にあるとなっています。
タイプ | トークン | |
---|---|---|
ライブ鑑賞 | 楽曲 | 演奏 |
レコード鑑賞 | トラック | 再生 |
〃 | 楽曲 | 再生 |
レコード鑑賞におけるトラックは、ギターのディストーションのかけ具合といった楽器の音色であったり歌手の歌声であったりという存在論的に厚い美的対象(いわゆる「サウンド」)だそうです。
上の区分を見る限り、生演奏の方にはそういった音色などに関するタイプはないようですが、そういった音色やフレージングの癖などは生演奏でもよく批評的な対象になっているのではないでしょうか。タイプとトークンという概念に適合しないのかも知れませんが、ジョン・コルトレーンらしいアーティキュレーション、ブレッカーらしいフレーズ、音を聞けば一発で誰か分るアート・ブレイキーのロールは、「その人らしさ」や「芸風」を例化しているというように表現できる気もします。
* * *
というようなことを素人なりに考えつつ、中継を見ながらハッシュタグでも呟いたわけですが、増田さんは次のようにツイートされていました。
というわけで来年も今井増田第二ラウンドやるよ!2013年は関西学院大に集合。男・八田に御礼のひとつもいわんとUSTタダ見したくらいであーだこーだゆうてる人たちにも是非現場に来ていただいて心ゆくまで呑んでサシでお話ししたいものです。徹底しておつきあいいたします
非専門家である私などがリングサイドではないにしろ声が聞こえてしまう場所で発言するのは専門家のじゃまになるのではないか、という懸念もありつつ、でもちょっとでも盛り上がるといいかと思ってツイートしてみたのですが、わずらわしい印象を与えてしまった可能性もありますね。
私のような、音楽研究のアマチュア/ファンというのはいままではあまりいなかったのかも知れませんが、他の分野ではアマチュア/ファンの多いこともありますよね。古生物学などは代表的かも。
古代史や考古学の分野では方法論をきちんと学んでいないアマチュアによる言説が広まってしまいプロフェッショナルな方の迷惑になっていることもあるそうです。反対に民俗学や天文学などではアマチュアによる調査・研究が学問に貢献することもあったりするとききます。
学会の翌日に行なわれた谷口さんのニコ生では「専門的にわかっている人同士の高度な理論というのではなく、こういった、ある程度音楽の話ができる人が関心を持てる話題に関して、なるべく広く巻き込んで議論をする方法を模索」*3してくださるそうです。
アカデミズムの外にいるけれど音楽研究に関心のあるものが研究者側とどのように関わったら良いのか、音楽言説の風通しを良くするためにも、在野側でも考えていきたいです。
そしていつかみなさんと直接お会いしてお話できたらいいなと思います。