2012年のボカロ再生数上位曲について
シュールレアリスムを正しく理解するPが再生数上位曲の伸び傾向などを研究するために作られたリストを私も聞いてみましたので感想を記しておこうと思います。
そのリストはこちら
特に面白いと思った曲はTwitterの方でも感想をつぶやいたので貼っておきます。
音が分厚すぎてそこまでやるかという笑いがw : 【GUMI】セツナトリップ【オリジナル】 (4:08) #sm17720979 URL
ミクは合法/こういう萌えソングもたまには伸びるのね : 【初音ミク】 ろりこんでよかった? 【フルver.PV】おじりなる(*´ω`*) (3:28) #sm17211747 URL
メトリックモジュレーションすごいな : 【初音ミク】二次元ドリームフィーバー【オリジナル】 (3:17) #sm16973327 URL
ブリッジだけ三拍子になったりテンポチェンジしたり : 【GUMI】幽霊屋敷の首吊り少女【オリジナル曲】 (4:29) #sm16866078 URL
全体を聴いてみておおよそ掴んだ傾向を列挙してみると次のような感じでしょうか。
- 高速ボカロックまだまだ好調
- 音圧・音数の詰め込み感パない
- リズム・曲展開が自由
- 動画として楽しめる=コメントのしどころがわかりやすい傾向
1.はかねてからwowaka氏などのロック楽曲をシュルるPが「高速ボカロック」と呼んで分析していたものの流行が続いているということですね。「マトリョシカ」や「ワールズエンド・ダンスホール」で聴くかれるような、「五七調の歌詞で1・3拍めを強調するフレーズを多用する」「和風ペンタトニックや東欧民族っぽいハーモニックマイナーを使う」「BPMが150〜200以上と速く、ビートの譜割りも細かい」といった楽理上の特徴を引き継いでいるように思われますが、これがなぜ流行り続けているかの理由は特定しがたいですね。
2.で言うように音圧が相当高くミックス/マスタリングされている上、フレーズの音数も多く、またギターの白玉+刻み+シンセの和音リフを重ねるなどアンサンブルの厚みも他ではあまり見られないくらいになっています。
3.でいう変拍子やメトリックモジュレーション、テンポチェンジなどをつかったリズム・曲展開の自由さもプログレッシヴ・ロックやジャズ、フュージョンなどの分野以外のポップスではあまり聞かれなかったものです。
ニコニコ動画という初動で伸びた曲がその後の再生数も大きくなりがちな場所で高い再生数を記録した曲ということからすると、上記のような特徴をもつとぱっと聴いた時のインパクト、派手さがあるため初動が有利だったのかな、と推測されます。
そして全体としてコメントのしどころがわかりやすく、いわゆる弾幕が張られているのがよく見られます。ロック曲だと「あああああああ」とシャウトするところ、ネタ曲なら仕掛けられたネタに乗るところ、カワイイ曲では顔文字パートなど。映像・コメントこみでの祭りの場としてのボカロ曲というのはわりと初期から変わってないのかもしれません。
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それにしても、どの曲もありきたりにならないように工夫が凝らされててすごいと思います。今の自分の好みからはストライクではないですが、中高生のときだったらきっとハマってたと思う。
上に示したような特徴を持つボカロ上位曲は、「メジャー化」したとはいっても最近のメジャーよりはずっと自由なように思えます。こういうシーンの状態は、J-POP最盛期のよく聞くと実はかっこいいことやってる人達のことを思い出しますね(個人的にはThe Boom、CHAGE and ASKA、ブルーハーツ、LUNA SEA... etc なんかがパッと思いつきます)。
そして言説の面で――オタク系として忌まれることはあれ――新しい時代の創作を代表するかっこいいものとされてるであろうことは今の若い子が羨ましいところかもしれません。J-POPは流行りもので洋楽のパクリの二流品みたいな言われ方することも多かったですからね。胸を張ってアイデンディファイしていける自分たちの音楽ジャンルがあるというのは幸せなことなのではないでしょうか。
しかし歌詞の面ではかなり焦燥感や絶望を表した歌が主流になっています(以前からV系ではネガティブな歌詞は結構ありましたが)。そうした歌詞に体験的に共感して聴いている子が多いのだとしたら――そんなベタな聴き方してるのではないかもだけど――その青春のハードさにシンパシーを禁じえません。