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Sound, Language, and Human

レビュー/批評/評論の違い

はじめに

前々回に『フミカ1.5』を出した折、「音楽哲学論考」のXnagaさんに感想をいただきました

記事の中で「フミカちゃんはけっこう、『レヴュー』『評論』『批評』というのを、同じ意味で使っている。ように読め」てしまうし、そもそもそれらの違いがわからない、という旨のコメントをいただきました。

そこで私の方からなるだけ早く返答したいと申し上げたのですが、そういったきりで半年以上が過ぎてしまいました。年をまたぐのはさすがにあれ、ということで以下にわたしなりに調べ考えたことを記してみようと思います。

『フミカ1.5』は全員で考えたことをフミカちゃんの語りの形にまとめて書いたものなので、メンバーと摺合せせず書いた以下の見解とは食い違う部分もあるかもしれませんが(たぶん大丈夫のはず)ご容赦ください。

執筆時に想定していた意味あい

まずはじめに、「『レヴュー』『評論』『批評』というのを、同じ意味で使っている」というご指摘ですが、ほぼおっしゃるとおりで*1、執筆しているあいだははっきりとした違いを定義していたわけではありませんでした。

とはいえ、「レヴュー」にしろ「評論」「批評」という語にしろ、それなりにイメージしていたものや暗黙に了解しあっていた用法というのはあったように思われます(し、その用法は後述する調べた内容とそれほど矛盾するようなところはありませんでした)。

まず記事のなかで批評という語についてしっかりお調べいただき、「批評と評論は同じだ」という見解に達してらっしゃいますが、それらの点については私もほぼ同意見だし、『フミカ1.5』でもそのように書いていると思います。

そしてレヴューの方は、「批評の文章・記事を具体的な一作品・一演奏会などについて書くこと」というような意味合いになっていると思います。『フミカ1.5』に先立って2013年2月に調べたOxford Advanced Learners Dictionaryでのreviewの説明が、

新聞・雑誌・ネット・テレビ・ラジオなどで本・映画などについて誰かの意見を表明ような報告、またそうした報告を書く活動
(review - Definition and pronunciation | Oxford Advanced Learners Dictionary at OxfordLearnersDictionaries.com)

となっていまして、そこからイメージしていたのは新聞での時評とか雑誌でのレコ評、あるいはブログなどでの批評的な紹介記事などであったといえます。

以上のようなわけなので、『フミカ1.5』の用法では、なにかを知り評価する文章という意味合いにおいてのレヴューは批評の一種、批評の具体的な一形態である(包含される [レヴュー⊂批評] といっていいのかな)ということになるかと思います*2

執筆時の見解はこんなところです。つづいて、実際どういう違いがあるのかなど、気になって調べてみたことを書いていきましょう。ある程度は私たちの見解の裏付けになる、かな。

英語での使い分け

これらの語彙に対応する英語について、Longman English Dictionaryに使い分けを示した表が載っていたので訳して引用してみます。

critic, review, criticism, critique
注意:criticを批評家が言ったり書いたりしたものを指すように使わないように。
レヴュー(review)は普通、批評家(critic)が新聞や雑誌に書く短い記事のことをいう。
 ・彼が初めて出した小説にはすばらしいレヴューが寄せられた
 ・彼女の演奏についてのレヴューはもう読んだ?
criticismは本や映画、論文、講演などについて意見を著す [publish] こと。
 ・文芸評論の選集
critiqueは一連の政治思想などのような問題を、演説・本・記事などのかたちで詳細に説明すること。
 ・彼は資本主義についての批評を書いた。
(review - Definition from Longman English Dictionary Online)

レヴューの説明はおよそOALDのものと同じことを言っていますね。で、critiqueとcriticismが日本語で言う批評・評論といったあたりに対応してて、critiqueの方がより堅い感じの語だとされているような感じです。

ちなみに英語ではcritiqueとcriticismは違うもの扱いする場合があって、どちらも批評・評論の意味で使うのだけどcritiqueはカントなどのいわゆる「批判的な思考」を示す場合があるそうです。やっぱりフランス語っぽい方が堅いイメージなのでしょうか。このため英語版wikipediaでもcritiqueとcriticismは違う項目になっていて、芸術批評の歴史を調べたいのに、critiqueを引いてしまうとカントやアドルノしか載ってない、みたいなことになります。

佐々木健一の『美学辞典』で述べられている次のような区別も基本的にこのcritiqueとcriticismの区別と対応するものでしょう*3

「批判」や「批評」には対象を吟味し、その特徴を見分けるという精神の仕事や態度を指す抽象的な意味があるが〔……〕それは「評論」にはない。この活動は、必然的に対象との間に距離を取ることを前提としているから、われわれの見方に照らして対象を相対化するとともに、対象に照らしてわれわれ自身の見方を相対化する。これは一般に評論と呼ばれる活動の領域を超える働きで、批評の最も根底的な効果と考えられる
佐々木健一 1995 「批評」 『美学辞典』 東京大学出版会、p. 218)

さて、使い分けはこのようなところですが、語というのは同じ一語でも歴史的に使われていくうちに意味が広がって多義語になっていくというところがありますので、より理解を深めるためにreviewの語源がどうなっているかみてみましょう。

reviewの語源

更に詳しく語源を知るには決定版のThe Oxford English Dictionaryにあたるのが。一番というわけで引いてみました(というか友人に引いてもらいました)。一応書誌情報は次の通り。

  • "review, n." and "review, v." Oxford English Dictionary. Third Editon. OED online. Oxford University Press. 2013/12/22, http://www.oed.com/

で、re-viewなので「再び-見る」というのが元なのだろうというのはみなさんも想像がつくのではないかと思いますが、およその大本はラテン語のrevidereで、「再び-訪れる」くらいの意味、そこから後期古典ラテン語で「再び見る」という意味になったのがミドル・フレンチ経由で英語に伝わったそうです。

言語史に詳しくないのでこのあたりの順序や影響関係を整然と要約することはできないのですが、13世紀には「(あるテキストを)精査する・吟味する」という意味になって、 14世紀には名詞用法で「物事を熟考すること」、「軍隊に謁見すること」へと広がっている。

"review, n."の一番古い用例が1441年なので15世紀頃に英語に入ったのかな。ともかく、プロトタイプ的なイメージは「対象をもう一回見てしっかり調べる」というような感じが強かったんじゃないかと思われますね。13世紀の「(あるテキストを)精査する・吟味する」っていうのはたぶん聖書の法解釈学に関係することらしく*4、このあたりのイメージが文学の批評・レヴューなんかに影響してるんじゃないかと想像されます。

17世紀には「出来事や特定の時代などを回顧すること」、「すでに学んだことを改定したり反復したりすること」、「ある物事について一般的に調査・再考すること、あるいは特定の分野や期間についての出来事や発展を評価しまとめること*5」などの意味に広がりつつ、いよいよ「本や劇、映画、コンサートについての批判的な評価、説明」という意味の用法がでてきます。

この用法は1649年にA review of Doctor Bramble..his faire warning.という本のタイトルに使われたのが最初らしく、その後18世紀に入ってからの方が用例は多いようです。

だいたいこの時期はルネサンス末期から近世・絶対王政の頃にあたる感じですよね。週刊新聞が始まったのが1605年らしい*6のでそこでバロックの芸術について記事が書かれることもあったのかもしれません。このあたり詳しい文献、ゆる募です。

その後19世紀に軽いエンターテイメントの劇・ステージショーという意味が出てきたり*7、1975年にはピアレヴューすることというのが出てきたりしたそうです。

ながなが書いてきましたが、これでだいたい今使われる意味はひと取り揃ったかな。「レヴュー」の意味、およそつかんでいただけたでしょうか。

 * * *

さてさて、批評とレヴューの使い分けでは「なにと対立させているか」(研究者だったら論文以外の [価値判断にかかわる] 文章ならなんでも批評と呼ぶかもしれない、ライターだったらレコ評はレヴューとは呼んでも批評とまではいわないかもしれない)とか、やおきさんのいう「批評とはそれ自身の外部にあるものについてのことばを用いたあらゆる表現」*8ってなんやねんとか、まだまだ課題と話題はつきませんが、長くなりすぎるのと疲れたのとで、このへんで筆を置かせていただきます。

歓迎: 疑問・質問・サジェスチョン

*1:“ワタシがさきほど一生懸命調べ学習をして導き出した「批評/評論とは?」と、フミカちゃんの「レヴュー/批評/評論」の見解。一見全然違うようで、実は同じようなことを言っている。はず“ のくだりなどまさにその通りという感じで、本当にしっかり読んでくださってありがたい限りです

*2:余談ですがこのブログのカテゴリ分けも批評一般についてはcritique、曲などの個別の批評はreviewってカテゴリになってますね。いま気づいたw

*3:criticismはdisるの意味の批判のニュアンスで使われ、批判はcritiqueの訳語であったりするという訳と派生の不一致があるのでややこしいですがw

*4:解釈学 - Wikipedia

*5:これ、いまでいうレヴュー論文の意味に残ってますよね

*6:新聞 - Wikipedia

*7:劇の名前かららしい。日本だとこの用法は宝塚なんかでよく聞きますよね

*8:https://twitter.com/yaoki_dokidoki/statuses/330909848839536641