Jablogy

Sound, Language, and Human

『DAIM append』感想

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ウェブ上の無料音楽をレヴューするサイトDAIMの同人誌版第二弾*1

全96ページ、参加人数は編集後記にあがっている人だけでも27人と「薄い本」にしては量的にマッシブですが、内容の方も負けず劣らず濃いものになっています。

特集

特集では、散逸しているレヴューを糾合することで利便性を向上させ、楽曲投稿者へのいい反応を返してエンカレッジしようという理念が語られています。

わりと最近まで、『Vocalo Critique』でも作品論が少ないと言われていたり*2、一般的にも日本にはピッチフォークみたいなのがないと言われたりしていた*3なか、DAIMが登場してくれたのは一ユーザーとしてもありがたかったです。

レビュアーによる偏りを指摘する声もあるようですが、その辺はキュレーションや言論の多様性ってそういうものなので、ということですかね*4。おすすめをするひとが増えれば中には自分に合う人もでてくるでしょうし。

リアルタイム・レビュー

それから、サイトと同人誌だけでなく、ボーマス会場での「リアルタイム・レビュー」という企画があったそうです。書く→読むという通常ならかなりタイムラグがあるプロセスに即時性を持ちこもうというのは実にウェブ時代的で面白いですね。

//どの作品をレビューするかをどうやって決めたのか、ちょっと気になります。

広がりのある言説

Pilotから引き続いてのアルバム・レビュー、仮想コンピレーションでは、しっかりコンテクストやコンセプトに話題が及んでいて読み応えがありました。サイトのほうではこのあたりが少し弱い感じがしていましたが、400文字という制限の中では仕方ないところもあったのかも。

後半のコラムや座談会では、どうやって聴くかというリスナーの視点に加え、音楽の楽しみどころについての批評的な着眼点にも興味を惹かれるものがありました。そしてなにより語りに熱がある。

この熱量を言い表す言葉は本書のDIAMレビューのなかにあります。

ウェブ・サイトのDAIMを開くと〕そこには、言葉が溢れていた。
とてつもなく身勝手で、だからこそ熱量を持った言葉が。

新鮮な感動を瞬間冷凍した率直な言葉が。
チラシの裏に書く恥ずかしい言葉が。
詩作のように美しく流れる言葉が。
誰かが胸にしまいこんでいた小さな言葉が、
溢れている
〔……〕
そして自分も語ってみたくなる。
〔……〕
そうだ、これだ。
だからムズムズする…のだ。 (p. 20)

このように読み手を触発するDAIM。今後、Tumblrから移行してのサイト・リニューアルも視野に入っているそうです。いち読者として、また音楽をよりよく捉える言葉をもとめる人として、楽しみにしています。

*1:Pilotから本体がないままいきなりAppendがでてるのが面白いですが、次くらいから本シリーズになったりするのかな?

*2:例えば、わらいもとこ 2012 「天使はかくも語りがたき」 中村屋与太郎編 『Vocalo Critique』 vol. 07、白色手帖、pp. 44-55.

*3:https://twitter.com/shinimai/status/112935436351045632

*4:当ブログエントリ佐々木俊尚『キュレーションの時代 ―― 「つながり」の情報革命が始まる』参照。私はわりと佐々木さんの見方に賛成派です