宮脇孝雄『翻訳の基本』
- 作者: 宮脇孝雄
- 出版社/メーカー: 研究社出版
- 発売日: 2000/08
- メディア: 単行本
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小説翻訳を多く手がける著者によるジャパン・タイムズでの連載をまとめたもので、実務上で問題になるさまざまな事柄・有用なTipsがたくさん紹介されている。
なので、手元においておいて、翻訳作業をしていてなにか問題に引っかかった時、こういう場合はどうするのだろう、という感じで参照するのがよい使い方であるように思われる。
反面、全体をつらぬく理論やパースペクティブはあまり強くなく、多少散漫な印象を受けるかもしれない*1。
とはいえ各所で主張されていることから、〈訳す対象の言葉がどういう文脈・文化的な位置に置かれているか、あらゆる面から慎重に検討・吟味・調査し、それを対応する日本語の言語的・文化的脈絡に置いたうえで、日本語として自然な文にせねばならない〉ということはよく理解できた。
以下、私からみて面白かった/有益だったポイント
- 読点は必ずしも原文のカンマに従わなくてもよい。日本語として必要なところにうち忘れないほうが大事。(p. 22)
- 英語のパーレンカッコは説明の場合とメタからのツッコミ・冗談の場合があるので訳す時はよく見分ける(p. 25-6)
- 原文の直喩は直喩、隠喩は隠喩のままにする*2(p. 53)
- パラグラフも原文どおりの区切りに(p. 57)
- 慣れている単語の意外な使い方に注意(第2章全体)
- kill / killerは「かっこいい」という意味だが不定冠詞aがつくと「非常に嫌な体験」という意味に(p. 68)
- 外見についてdarkとだけ言う場合、肌の色ではなく髪の色を指す(p. 74)
- 助詞「の」を連続させていいのはせいぜい3つまで(p. 132-4)
- しかつめらしい≠しかめつら(p. 143)
事実関係の確認などで誤訳をしているケースが紹介されているが、出版が2000年、書かれたのはそれより前ということで、いまならググれば済むようなことも昔は大変だったのだなと思わされた。
もっとも、なにかおかしいなと感じてググるに至るまでのセンスが必要なことは変わりないので、できるだけ幅広い教養・興味関心をもつことが大事なのは著者の言うとおり(p. 15-7)だろうなと思う。