Jablogy

Sound, Language, and Human

「グルーヴ」概念の変遷

 フミカレコーズ仲間のやおきさんが「グルーヴ」という言葉がマジックワード的で問題があるのではということで、次のエントリをアップされていたので、語源からどのような変遷があったのかざっと調べてみた。

 本来はOEDを引くべきだが、とりあえずの下調べというところで、手軽にひけるOnline Etymology Dictionaryからあたってみた。

Online Etymology Dictionaryより

groove (n.)
c.1400, "cave, mine, pit" (late 13c. in place names), from a Scandinavian source, cf. Old Norse grod "pit," or from Middle Dutch groeve "furrow, ditch," both from Proto-Germanic *grobo (cf. Old Norse grof "brook, river bed," Old High German gruoba "ditch," Gothic groba "pit, cave," Old English græf "ditch"), related to grave (n.). Sense of "long, narrow channel or furrow" is 1650s. Meaning "spiral cut in a phonograph record" is from 1902. Figurative sense of "routine" is from 1842, often deprecatory at first, "a rut." (groove (n.) - Online Etymology Dictionary)

groovy (adj.)
1853 in literal sense of "pertaining to a groove," from groove (n.) + -y (2). Slang sense of "first-rate, excellent" is 1937, American English, from jazz slang phrase in the groove (1932) "performing well (without grandstanding.)" As teen slang for "wonderful," it dates from c.1941; popularized 1960s, out of currency by 1980. Related: Grooviness. (groovy - Online Etymology Dictionary)

 ではまず、この二つの項目の内容をざっとまとめてみよう。

 Grooveの語源にあたる語たちは、もともとは古英語、古高地ドイツ語などにおいて「小川、(排)水路」をあらわす意味から、古ノルド語「穴」中オランダ語で「畝」などの意味に変化した。15世紀にgrooveの形になった時には「穴、鉱道、洞穴」などの意味を持っていたらしい。

 17世紀には「細長い溝、水路、畝」といった意味になり、1902年には「蓄音機〔の蝋管〕に刻まれた螺旋状の溝」を表す言葉として用いられた〔Rare Groove(珍しいレコード)という1980年代後半イギリスにおけるムーブメントの名は、この刻まれた溝をもってレコード自体を指す換喩になっているといえよう〕。

 groovyという形容詞形がジャズのスラングで「(これ見よがしでない)いい演奏をする」という意味で使われたのが1932年である。ジャズのスラングにおける「in the groove〔レコードの溝にハマるということだろう〕」という用法から、1937年には「一級品の、素晴らしい」という意味で俗に使われるようになった。41年にはティーンの間のスラングで単に「素晴らしい」を意味するようになっていて、この使い方は60年代には一般化した、とのことである。

考察

 以下は録音物のタイトルに現れていた用法を参照し、一般での使用を推測した考察である。

 注目すべきポピュラー音楽史上の用法では、grooveという語はビバップの頃に楽曲やアルバムのタイトルで使われており、ジャズマンの間でのスラングであったことが偲ばれる。例:

 次いで、R&B/ソウルでもリズムのよさをあらわすのに用いられ、そしてなによりファンクにおいて中心的な価値をあらわす言葉になったものと思われる。

/* 興味深いことにもっとも典型的にgroovin'な音楽であろうJames Brownの歌詞にはあまりgrooveという語は出てこない模様。 */

/* 筆者の「grooveしている」音楽のイメージは間違いなくこの後二者によって形成されたものである。特にバーナード・パーディのものはVHSテープが擦り切れるまで視聴した。その中でパーディはgrooveの語を連発している。*/

 このあたりのファンキーな黒人音楽のリズムのよさ(特に適切なズレを保っているがゆえにもうそこしかないというタイミングで発音されているようなそれ)をあらわす意味が現在のこの語のイメージの中心、典型だろう。

 そしてここを発端として、それほど黒人音楽的でないリズム一般についてもそのよさをあらわす用法へとgrooveの意味は広がっていったようだ。例えば、ジェフ・ポーカロの教則ビデオにもgrooveの語は冠されているし、ロック・ミュージシャンも場合によってはグルーヴという語を使うだろう。

 英語圏でドラム演奏のリズム・パターンを指してgrooveという用法も同様の経緯であろうと推察される。

 さらにはある人のもっているリズムの雰囲気や特徴を指してgrooveという場合もある(例えば「スティーブ・ガッドのグルーヴはしかじかだ」など)。

 *

 R&B期以降の記述は推測にたよっている部分が大きいので、今後、裏付けとなる資料が得られるとよいと思う。雑誌などのコーパスにあたれるとよいのだろうが。