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Jablogy

Sound, Language, and Human

Let Freedom Ring

English music

 アメリカでは二月はBlack History Month 黒人歴史月間になっている。それにちなんで有名なマーティン・ルーサー・キング JR. のスピーチ "I Have a Dream" (1963) を精読してみた。感想をいくつかメモしておきたい。

 レトリック的な特徴としては次の4点が上げられると思う。

 引喩 (allusion) というのは、「有名な人、場所、出来事、文学作品、芸術作品などを直に述べるか、それらについて言及する修辞技法のこと」*1「自分の言いたいことを、有名な詩歌・文章・語句などの引用で代弁させること」*2。独立宣言や差別の看板の文言、有名な問題がある地名などをあげているので、主張の内容が聞くがわの腑にストンと落ちてくる。

 また、はっきり引用箇所がわかるフレーズ*3から、これはもしかするとと思わせる単語選び*4まで、そこかしこに聖書の引用が散りばめられている。そうすることで、紀元前のレバントで圧政と戦った人々と、公民権運動で戦う人々が、イメージ的に重なり合うような効果が出ていると思われる。

 想像しやすいという点で、引喩と重なる(というかはっきりわけられないのだろうと思うけど)のが、視覚的なメタファー。抽象的な概念を言い表すのに具体的な名詞を出して、「AというB」*5「AのようなB」とすることで、かなり理解しやすくしている。独立宣言で示された平等がまだ達成されていないのを、未払いの小切手に譬えるところはユーモアも感じられる。メタファーではないが、Let freedom ring のパートであちこちの地名を出すのも、国土全体がひとつの未来に向かっていくさまをありありと想像させる。

 そして反復法。タイトルにもなっている "I have a dream" や オバマ大統領がオマージュした "Now is the time" など、フレーズを繰り返すことでグイグイ盛り上げ、螺旋状にテンションがあがっていく。

 静かなトーンで始まったスピーチも、そのような反復法を通じてしだいに高揚していき、途中では感極まったように声を震わせたりしながら、最後にはかなり大きな声で熱っぽく聴衆に語りかけている。この盛り上げ方の推移は、ジャズのアドリブソロ*6の典型的なダイナミクスの付け方とそっくりである。

 アフリカ系の人が多くゴスペルをやる教会では説教と会衆のコールアンドレスポンスが歌とことばの中間のようになるとも聞くが、キング牧師もそうした伝統に生きたのかもしれない。キング牧師バプテスト派にはゴスペルで盛り上がるところもあるそうだし*7、最後に引かれている Free at Last は黒人霊歌だし。

 また、"I have a dream," "One hundred years later," "We can never be satisfied,” などの、文の上では先頭に来ているフレーズを、前の文章からひとつづきに読んでしまうことによって、文の切れ目をずらしているのは、ビバップ的なフレージングというか、"over the bar line" なフレージングにとてもよく似ていると思う。(ラップはあまり詳しくないけど、エミネムパブリック・エネミーもこういうことしてた記憶がある。)

 *

 ……という具合に、トランスクリプトが掲載されているサイトが集めたトップ100の中でも、堂々の1位を得るにふさわしい、音楽的・詩的なスピーチだと思う。英語力向上のためにも、繰り返し聴きこんで、できれば覚えてしまいたいところだ。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%95%E5%96%A9

*2:新村出編『広辞苑』第五版、岩波書店、1998

*3:アモス書、イザヤ書から引かれている

*4:captibity, tribulation. バビロン捕囚や患難を指してるっぽい

*5:この型をとっているので同格の of がすごく多い

*6:「アフリカ系アメリカ人ゴスペル歌手マヘリア・ジャクソンが演説終盤に『あなたの夢を語って』と叫んだことから、キングはあらかじめ用意していた演説を中断し、“I Have a Dream” という語句を強調して説き始めた」(http://ja.wikipedia.org/wiki/I_Have_a_Dream)とあるのだけど、これが本当ならキング牧師はアドリブ力もすごいということになる

*7:八木谷涼子『なんでもわかるキリスト教大事典』 朝日新聞出版、2012