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Sound, Language, and Human

塚田健一 2016『アフリカ音楽の正体』音楽之友社

アフリカ音楽の正体

アフリカ音楽の正体

ガーナやザンビアをフィールドとする民族音楽学1によるアフリカ音楽論。アカデミックな音楽研究が文化や社会への注目を強める中,肝心の音楽それ自体という本丸に取り組むケースが減っていることを憂い,正面からアフリカ音楽がもつ音の特徴を描写しようと試みている。

こうした出版企画が立てられたのは,坂本龍一の音楽番組『スコラ』に出演したとき,Twitter上で視聴者から意識の高い反応が寄せられたことに意を強くしてのことだそう(私もツイートした甲斐があった・笑)。あの番組を楽しめるコアな音楽ファンには一読を勧めたい。

類書と比べてよいところだと感じたのは,現地に滞在して自分でも演奏法を習得している学者による研究だけあって,演奏者が演奏時に音をどのように捉え・聴き・感じているかという主観視点からの記述がある点である。

例えば「アフリカ音楽のアンサンブルにおいては太鼓の各パートの開始点がずれている」と言われるが,主観的にはそのズレをどう捉えているのか,個人的にずっと気になっていたので,各人が本当にズレたところを開始点(アタマ)と捉えているという見解が聞けてよかった:

第二奏者は,〔……〕まず自分の三拍子のパターンの一拍目だけをしかるべき場所〔……〕に入れていき,それを何回かくり返して,自分のパターンの開始点を確定するのである。ここで「開始点を確定する」とは,自分の打っているビートが三拍子の三拍目ではなく,第一奏者の拍子とは独立した自分の三拍子の一拍目であるという感覚を獲得することである。(p. 211)

他にも,先行研究史を踏まえたアフリカンリズム論(アフリカ音楽は変拍子ではない:pp. 84-6),バントゥー系民族の移動の歴史と重なる「標準リズム型」ベルパターンの分布(pp. 66-71),モードチェンジのような「中心音の転移」という技法/現象(p. 149),トーキング・ドラムがどの程度言葉の意味を伝えることができるか(pp. 163-9),口唱歌における音象徴が結びついているはずのピッチのイメージと実際の音の高さとの逆転(pp. 180-3),などなど興味深いトピックが目白押しだった。

なかでも,アフリカのハーモニーについての解説は説明力が高く魅力的である。アフリカ的ハーモニーの生成原理は「飛越唱法」というペンタトニックやエオリアンなどのスケール上をメロディに対して一個飛ばしで歌うことにあるという(p. 110)。アフリカには平行三度でハモるグループと平行四度でハモる人々がいるが,それぞれ七音音階か五音音階のどちらをもとに「飛越唱法」を行っているかによって違いが生まれているそうだ(p. 112)。

なお,本書で言及されている音源は音楽之友社の特設サイトで聞くことができる2。読みながら音源を参照するのに大変便利なので是非利用されたい:

 


  1. なんとアラン・メリアム,ジョン・ブラッキング,ゲルハルト・クービックという大家三人に直接教えを受けているらしい。

  2. 楽譜2-6A ルヴァレ人の記憶法「カニケ・ムンデホ・スンガモ」(p.64)は,音源を聞く限り「カニ・ケム・デレ・スンガモ」と言っているように聞こえる。その説明も「リズム型が唱え言葉の最初の音節『カ』ではなく,次の『ニ』から始まっている」となっているが(ibid.),普通にアタマから「カ」で始まっているように聞こえる。私のほうがなにか間違って聞いているか捉えているかしているのかもしれないけれど一応報告まで。