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長﨑励朗『偏愛的ポピュラー音楽の知識社会学――愉しい音楽の語り方』

【書誌情報】
長﨑励朗 2021『偏愛的ポピュラー音楽の知識社会学――愉しい音楽の語り方』叢書パルマコン・ミクロス01,創元社 


マスメディア史・大衆文化史系の社会学者によるポピュラー音楽論。

タイトルの「偏愛」は取り上げる対象に著者の選好による偏りがあること1,「知識社会学」は諸音楽に「多くの人が気づいていない、さまざまな『思い込み』が隠されている。その起源やメカニズムを明らかにする」こと2,を意味している。

トピックや音楽ジャンル――すなわち明らかにされるべき「思い込み」――の選択がツボをついており,当該ジャンルがもつ歴史的文脈の整理プラス社会学的な理論化のバランスがよいと感じた。


第1章では「『ロックは大きな社会変革と結びつくものだ』という『思い込み』」(p. 16)がヒッピーカルチャーに由来し, それと対極にあるのがモッズであることが示されている。

次いで著者は,それら音楽と結びつくカウンターカルチャーサブカルチャーの位置づけを「マジョリティ/マイノリティ」+「対抗の意図がある/ない」の2軸・4象限で整理する。

この議論は,ある種のクリシェ――音楽といえばブルースだろうがジャスだろうがなんでもカウンターカルチャーだと思い込むもの言い――を相対化する上で価値があると思われた。


4畳半フォークが 「果たされなかった革命を悼むレトロスペクティブ(過去をかえりみる)なフォーク」であり「過ぎ去る見込みのある貧しさ」を描いた中産階級的な音楽であったこと,初期のテクノが電子音のまがいもの性をあえて用いたキッチュであることの指摘も興味深かった。

団塊世代あたりの貧しさ観はひきこもりや労働の問題からも大事なテーマだろうし,テクノと同じ文脈にあるだろうサイバーパンク,ひいてはニンジャスレイヤーもキッチュとして捉えられるのだろうな,と。


  1. それによって不都合が生じるような問いの立て方はしていないので問題はないように思われた。また選好といえば,対抗的な文化を評価するにあたり,ロスジェネらしいリベラル嫌いがうっすら滲んでいるような気がしないでもない。
  2. 書籍詳細 - 偏愛的ポピュラー音楽の知識社会学 - 創元社 https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4327