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Jablogy

Sound, Language, and Human

ワルター・ベンヤミン 1939 「技術的複製可能性の時代の芸術作品 」 (3)

(2)へ、はじめから読む方はこちら(1)へ

■考察

下部構造が上部構造の影響、因果関係の不分明

死に舞さん(@shinimai)も

いろんなとこで言ってるけど、ベンヤミンアウラは認識論的な話と複製に関わる存在論的はなしごっちゃにしているから使えない。
http://twitter.com/shinimai/status/64677464487632896

とおっしゃっていた。これと重なりつつも少しずれるかもしれないが、私にはこの議論は因果関係が不明確なように思われる。

史的唯物論と神秘主義のコンビネーションがベンヤミンの特徴であり、一応写真や映画の登場によって認識の条件が変わったという論旨ではある(下部構造が上部構造に先駆ける)。

が、そもそもそれらが登場するきっかけ・要因も大衆化という社会状況による部分が大きいので、よく考えるとどちらが先行する要因であるかは不分明であるといわざるをえない。

複製技術が登場したことでたまたまアウラが衰退する状況になったのか、大衆化によってアウラ的な権威・ありがたみを引きずり下ろしたいという欲望が複製技術を生んだのか。

実際にはどちらがどちらと分けることはできないのかもしれない。ともあれ、現代のウェブ化などに応用する場合、注意が必要であろう。

音楽と録音について

繰り返しになるが、ベンヤミンがイメージしているのはどちらかといえば造形芸術や舞台芸術のことようなので、音楽や録音物については別個に検討が必要であると思われる。

思いつく問題を列挙してみよう。

*まずベンヤミンが批判したナチスは音楽の利用においても巧妙であった。

アウラインプロヴィゼーションの一回性
アウラを特徴付ける「一回性」はジャズやブルースのインプロヴィゼーションで強調されるものである一方で、それらは録音物によってポピュラーになった。

ロックにおいてもレコーディングによるサウンドを楽しむことが美学上重要であるとされながらも、批評的にはライブ至上主義と言えるような「一回性」を重視する立場が優勢であったといっていいはず。

アウラに代わるものとして指摘されている「作者にもとづく真正性」や「スター崇拝」といった価値観はなによりポピュラー音楽を特徴付けるものではないだろうか。

*クローズアップやスローモーションによって、映画が視覚における無意識の発見となったように、録音が聴覚が本来捉えない微細な音を強調したのはたとえば「テクノイズ」として知られている。また技術的な調声の追及によって、ボーカルシンセ音楽は声の認識における無意識の発見となっているといえるだろう。

*絵画は瞑想的、映画は気晴らし的だとベンヤミンはしているが、音楽はどうであろうか。

*集中的聴取と気晴らし
18世紀には現在クラシックと呼ばれている音楽もサロンのBGM的なものであり、コンサートホールにおける集中的聴取が成立したのは19世紀であるいう*1

これは「純粋な」芸術、「芸術のための芸術」という理念がうまれ、音楽や芸術が「神なき時代の宗教」となったことと対応している。

録音物の聴取においては、一種の集中的聴取と気晴らし的な聴取のどちらもがあるし、もっといえばシチュエーションに応じて様々な形があるといえよう(BGMでも街中で聞くのとTVのバックで聞くのはおそらく意味が違うだろう)。

*ジャズ喫茶におけるジョン・コルトレーンなどの「集中的聴取」はあたかも禅の行のようだと菊地成孔大谷能生は指摘している*2

*それから、希少性や複製不能性にもとづく礼拝価値と、作品や演者自身が持っている魔術的な影響力――どれほど複製されようがエルヴィスやデューク・エリントンの魅力やカリスマ性は減退しないだろう。ギリシア人はオルフェウスの竪琴の神話としてそうした音楽の力を語り継いだのかもしれない――この二つはつい混同しがちであるが、分けて考えたほうが良いかもしれない。

こうした問題を考えるのに役立つであろうFurther Readingsとしては

細川周平 1990 『レコードの美学』 勁草書房
増田聡・谷口文和 2005 『音楽未来形 ―― デジタル時代の音楽文化のゆくえ』 洋泉社
ロラン・バルト 1984 「声のきめ」『第三の意味』沢崎浩平訳、みすず書房

などがあげられるだろう。今後の課題として意識しておきたい。

<参考URL>
死に舞(@shinimai)/2011年05月01日 - Twilog http://twilog.org/shinimai/date-110501/asc
logical cypher scape ■[読書][文化論]ヴァルター・ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」 http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20070206
坂本龍一さんインタビュー1〜現代のアウラについて〜 http://togetter.com/li/91518

■余談『ベンヤミン・アンソロジー』について

本書にはベンヤミンの重要な著作のうち短めの論文があつめられていて、彼の思想のエッセンスが一冊に詰まっている。

この 「技術的複製可能の時代の芸術作品」のほかにも「暴力の批判的検討」「模倣の能力について」「翻訳者の課題」「歴史の概念について」などさまざまな分野で引用・参照される文献があつまっていて、手元にあると便利である。

訳文もすっきりしていて読みやすい。

残念な点としては、本書には原典の書誌情報が載っていないことがあげられる。投稿の規定などの都合で、参考文献に記載する必要がある人もいると思うので、できれば載せて欲しいとおもう。本来そういう場合は、訳書をつかっても補助に止め、原書に当たれということなのだろうけれど。

ベンヤミン・アンソロジー (河出文庫)

ベンヤミン・アンソロジー (河出文庫)

*1:渡辺裕 1989 『聴衆の誕生 ―― ポストモダン時代の音楽文化』 春秋社

*2:菊地成孔大谷能生 2009 『アフロ・ディズニー』文藝春秋