先日アップした英語教材・リソースの記事中,オンラインで利用可能な辞書については過去にTwitterでつぶやいたもののまとめを参照するにとどめていた。そのまとめからも一年たち,使い方や使っているサイトも変化してきているので,ここでアップデートをはかろうと思う。
※2016年1月17日,goo辞書の記述を改訂。
※2015年2月7日にさらに改訂を加えた。
※2015年12月25日,英英辞典の紹介に Colins Cobuild を追加
ここにリストした多種類の辞書を引く理由は,「ひとつの単語をさまざまな角度から見ることで,発音・綴り・訳語・定義・語源・類語・用例・ヴィジュアルの相互ネットワークを形成し,深い理解と記憶の定着を助ける」ことである。もちろんリーディングやライティングの際に適切な語義や用法を調べるうえでも有用だ。
英和辞典
• Weblio辞書 - 英和辞典・和英辞典
研究社の『英和中辞典』に加えて,WiktionaryやJST科学技術用語日英対訳辞書などさまざまな辞書を同時検索してくれる。といってそれほど詳しい情報が得られるわけではないがマイナーな語でもヒットする可能性は高い。
メインの研究社『英和中辞典』(第6版)は見出し語・複合語など約90,000のごくスタンダードな英和辞典で,文法的な情報,発音,用例と必要な情報をおさえながらスッキリと分類されまとまっている。
用例も複数辞書のものを見ることができるので,とにかく最初に引くべき辞書として信頼している。
• 英辞郎 on the web
翻訳者が集団で作ってるという「英和・和英対訳データオンライン検索サービス」。なので実務的な例文・訳例が多い*1。単語を引くだけでなく,数語のフレーズで検索しても直訳ではない自然な日本語が載っていたりする。読書猿Classicの記事で紹介されている検索Tipsを使うとよりうまくヒットさせられる。特に英単語と日本語を同時に検索するテクは私もよく使っている。
ほかに,語数が多いこと,新語に強い点なども長所だが,逆に文法・語法の情報はあまり載っていない(名詞の可算/不加算すら区別されていない。動詞がどんな構文,前置詞を取るかなどもわからないことが多い)。また語義の順番も使用頻度順じゃないので重要度がわかりにくいというきらいはある。あくまで翻訳するときに参考にすべき訳語・訳例のデータベースであって辞典ではないのだと認識しておく方がよいのだろう。
※ [2015/05/12追記] 2015年4月から無料版の表示に変更が加えられた。当記事のコメント欄参照。
なお,英辞郎もWeblioも,ChromeやFirefox向けの拡張機能が出ており,ワンタッチで検索したりマウスオーバー表示したりといったこともできるようになっている。
- 英辞郎 on the WEB 拡張機能 - Chrome ウェブストア
- 英辞郎 on the WEB :: Add-ons for Firefox
- ブラウザに検索機能を組み込む - ヘルプ - Weblio英和辞典・和英辞典
• 研究社 - ルミナス英和・和英辞典
英和中辞典の後継的な学習辞典(収録語句10万)という趣。赤青黒の配色や囲みなど,レイアウトもいかにも学習辞書という印象だ。有名なジーニアスと似た感じで語法をかなりしっかり掲載していたり,中核的な語義からの派生を図示したりと,とても気が利いている。
検索欄がスクリプトによるもののようで,後述するブラウザ拡張から直接検索できないのが残念である。可能であったらこちらをファーストコールにしたのだが。iOS上で使うぶんには他と条件は変わらないので,そちらでは積極的に使っている。
• goo辞書 - ランダムハウス英和大辞典
goo辞書で引ける英和辞典は,以前は『プログレッシブ英和中辞典』(第4版)だったが,2015年の末頃から『ランダムハウス英和大辞典』に変更になったようだ。
この辞書は研究社の英和大辞典とともに定評のある大辞典で34万5千語を収録しているとのこと。大抵の語,語義,成句は見つけることができるだろう。
同名の米語辞典からの翻訳によって作られていることで,単に近似的な日本語単語を列挙するのではない,意味の実質に即した訳が与えられているため,引いていてしっくりくることが多い。類語解説の囲み記事などもツボをおさえたいいものが多数ある。
94年の第2版以来アップデートされていないため,コンピュータ用語など新しい語に弱いのは仕方のないところ。goo辞書には専門用語辞典も収録されているのでそちらで補うのもよいだろう。
また,語法解説などがそこまで詳しくされていないとか,マイナーな語義まで載っていることで中心的な意味がどこか見えにくかったりするなど,基本的な語彙を学習するための辞書としては使いにくい面もあるかもしれない。
とはいえ,長年にわたり広範な支持を得てきた信頼できる辞典が引けるのは大変ありがたい。「WEBの辞書は信頼性が低いから~」というクリシェも遠からず過去のものになるだろう。
英英辞典
• Longman English Dictionary Online
本辞書(LDOCE)の定義文は2000語レベルで書かれている。語彙的な負担が少ないのはよいが,持って回った言い回しになってて余計わかりにくいことも。語義の配列が完全に頻度順なので,多義語がもつ複数の意味の内どれが重要か判断したい時参考になる。
• Oxford Learner’s Dictionaries
こちらは3000語レベル。2015年1月後半ごろ,サイトのデザインがアップデートされ,辞書もOALDの第9版が使われるようになった。同意語やコロケーション,語源も表示されるようになり,複数の語を検索欄に打ち込んでイディオムや句動詞を検索することもできるようになった。大変使い勝手がよくなっており,おすすめである。また,英米それぞれの発音が発音記号で示されていて,さらに音声で聴けるのもよいところだ。
LongmanもOxfordもそうなのだが,例文がコーパス(実際に使われた英語のデータベース)からそのまま持ってきたものであり,定義文よりも語彙レベルが高くなっている。文脈の情報もないので意味や構文が取りづらいこともしばしば。なので,例文は英和辞典から拾ったほうが速いと思われる。
これら学習者向けの英英辞典は,語の定義を簡単な英語で定義・説明してくれるので,英和辞典の訳語を見ても多義的すぎて理解しづらいときなど,その語がどういう概念なのか知り,微妙なニュアンスを掴むのに有効である。
例えば “dissident” という語を引いてみると,Weblio英和辞典では「意見を異にする; 反体制の」という訳語があてられている*2が,Oxford Learner’s Dictionaries では次のように定義されている:
a person who strongly disagrees with and criticizes their government, especially in a country where this kind of action is dangerous 〔政府に対し強く反対し批判をする,特にそうした活動が危険な国においてそれを行う人物〕 (http://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/dissident)
平和な国でただ単に政治に不満をこぼすようなものではなく,命の危険すら感じるようなニュアンスであることがわかるといえよう。
• Colins Cobuild Dictionary
LDOCE,OALD とともに有名な学習者向け辞典。語義の説明がフルセンテンスになっているので,実際の使われ方が定義文の中でそのまま見て取れるようになっている。定義の内容や分類も LDOCE,OALD とは微妙に違っていることがあるので,それらを引いてもピンとこないときに Cobuild を引くと「あー,なるほど」とわかる場合もある。
• Oxford Dictionaries
こちらは語彙制限のされていないネイティブ向けの英語辞書,Oxford Dictionary of English が引ける。ODEの説明はこちらに譲るが,収録後数が多くマイナーな用法もわかったりする。一番の特色は,中核的な語義からツリー状・階層構造状に語義が配置されていて,派生関係がとてもわかりやすくなっている点である。
語源辞典
• Online Etymology Dictionary
ウェブ上で引ける語源辞典としては決定版か。記述する上での語彙の制限がなく,書き方も独特なので慣れるまでは少しかかるかも。あと英語史の知識が多少はないと,どこから借用したなどの情報が理解できないだろう。英語史の入門はこちらを参考に。
元の意味とその歴史的な変遷を知ると,いま使われている多義語のそれぞれの用法がどのように派生したかわかり,多義語の全体像を立体的・統一的に把握することができる。語源を知り,接頭辞+語根でもともとの意味を掴むと,現在の単語の綴り・字面そのものがキーになって語義を思い出せるという利点もある。
• アルクの語源辞典
こちらは同じ語源の単語がまとめられている。同じ語源でもラテン語時代の語尾活用が違うために現在では綴りや発音がだいぶ異なっていることがある。そうした単語の意外な繋がりを知るのは楽しい。
※2015年2月7日追記
アルクのサイトが改装されたため,この辞典にはアクセスできなくなってしまった。便利だったので残念だ。代替になる同じ語源の語をまとめたサイトにはGogengo! - ゴゲンゴ!などがある。また,「知りたい単語を Online Etymology Dictionary で調べる → 語源になっている語を同辞書で検索する」という手順でも同語源の語を集めることは出来る。
ほか,一般の辞書サイトの語源欄については#485. 語源を知るためのオンライン辞書を参照。
Thesaurus (類語辞典)
• Thesaurus - Merriam-Webster Dictionary
定義と例文を示した上,同意・類義・反意語を分けて提示してくれる
• Free Online Thesaurus from Macmillan Dictionary
検索語の定義ごとに同意語をまとめる
•The Free Dictionary - Dictionary, Encyclopedia and Thesaurus
Weblio的な複数辞書の串刺し検索サービス。Thesaurus 欄は検索語に対して
ヒットした類語それぞれの定義を示してくれる。学習用途では一番よいかも。
シソーラスは英語の類語辞典。ネイティブが書き物をするときに言い換えの単語を探したりするのに使う。
学習者も,同意語・反意語をまとめて覚えておく――ひとくちにまとめて唱えたり,ある単語を見たとき別の同意語を思いだすようになどする――とよい。
なお,英和辞典の項で紹介したWeblioには日本語の類語辞典がある。ブログの執筆にも使えるし,翻訳していて英和辞典の訳語ではしっくりこないときに類語辞典を引いてみるとぴったりしたものがみつかることもある。
名言集・ニュース・画像・スラング
辞書ではないが言葉・単語について調べるのに便利なサイトを紹介。
• Quotation Search - The Quotations Page
英語では名言・格言を集めるのが盛んで,Twitterボットなども沢山あるが,こちらでは古今東西の名言を検索できる。類似サイトとくらべて,わりと有名な古典的なものがヒットする。『悪魔の辞典』なんかも検索対象だったり。
格言は短い中に意味がつまっているので印象が強くイメージが湧きやすいのが英単語の例文としてよい。レトリックや文法が難しかったりいろいろな意味にとれたりというのは難しいところだが。
• Google News
各社のニュースを横断して検索できる。英語学習でであるごく普通の単語でも検索してみるとタイトルにそれが含まれたニュースはあるものだ。『速読英単語』シリーズがあることからもわかるように,一つの話の中で覚えた語というのは忘れにくいのが利点(あ,あの話でよんだあれだった,というのはなぜかよく思い出せる)。
• Google 画像検索
訳語や定義を読んだだけではいまいちはっきり掴めない語でも,画像を見てみれば一発,ということがよくある。
例えば “stack” を英辞郎で引くと
〔干し草・書類などの〕山,積み重ね,堆積
書棚の列,図書館の本の保管場所◆本が棚に保管されている場所で通常一般公開されていない
《コ》スタック,一時的記憶装置
煙突,排気筒
(http://eow.alc.co.jp/search?q=%5bstack%5d&ref=crx)
などと多義的で,いまひとつ統一感がなく釈然としない。
ところが画像検索に “stack” と打ち込んでみればまさに百聞は一見にしかず。「ああ,こういう風に積み上がったもののことね」というのがお分かりいただけよう。
• Urban Dictionary
• 英語の俗語とスラング辞書 | 英語 with Luke
TwitterやWebで音楽の記事など読んでいるとわりと俗語にも出くわすことは多い。スラングは普通の学習辞書には載ってなかったりするので,そういう時に頼りになるのはこれらのサイト。
横断検索・串刺し検索できるブラウザ拡張
• Chrome ウェブストア - Search Center
Google ChromeやOperaユーザーであれば,この Seach Center という拡張を使うと,ウェブページ上の単語を選択して右クリックから検索したり,複数の辞書サイトを一括で同時に検索したりできる。強くおすすめ。
• Omnibar :: Add-ons for Firefox
※本アドオンはすでに更新されておらず Firefox ver.49 以降では動作しない。とても便利だっただけに残念である
Firefoxユーザーにはこちらの拡張がある。基本的にはChromeのOmnibarと似たような感じで,検索エンジンの略号を指定することで検索エンジンの使い分けを可能にする拡張なのだが,@マークに続けてカンマで区切りながら検索エンジンを列挙することで,一度に複数のサイトで検索することが出来る。
例えばGoogleの略をg,Wikipediaをwi,Amazonをa と設定したなら,検索語と一緒に @g,wi,a と入力するとこの三つのサイトで検索される。よく使う組み合わせ(英和辞典,英英辞典をまとめて,とか)を定型文としてIMEやクリップボード管理ソフトに記録しておくと使い分けが捗る。
この拡張の使い方については,こちらの解説が詳しく,参考になる。
学習法
以上長々とオンライン辞書を紹介してきた。
これらのサイトで,覚えたい単語を検索するわけであるが,単語やサイトによって記述によしあしが出てくるものなので,適宜わかりやすいと思うしかたでテキストファイルにまとめていく。
Markdown記法などで検索語を見出しにしておくと,アウトライン機能のあるエディタであれば見出しの単語だけ表示されるので,ノート兼単語帳にできる。新語を調べたときは上から追加し,復習するときには忘れた単語をアウトラインの上に持ってくるようにすると,覚えていない単語がノートの上の方に集まる仕組みだ。
なお,リーディング中に知らない単語に出くわして検索した場合,面倒でもその文と出典を書いておくべきである。復習や引用のしやすさ,「あ,この話でよんだあれだ」という文脈による記憶の定着がまったく違ってくる。
* * *
これだけの辞書が(ネット通信費はかかるが)無料で・高速に・編集可能な形で引けるというのは以前には考えられないことである。この状況を利用しない手はない。リソース配分を考えるなら,学習用辞書はwebで済ませてしまい,よりマニアックな・専門的な辞書*3や参考書にお金を割くのもいいかもしれない。
*1:英語に対応したこなれた日本語表現を探したいときは英日・日英 翻訳訳語辞典 — 辞遊人(DictJuggler)というのもある
*2:http://ejje.weblio.jp/content/dissident
*3:私ならOEDや『ジーニアス英和大辞典』のPC版なんかが欲しい。が高い