Jablogy

Sound, Language, and Human

辻田真佐憲『ふしぎな君が代』

ふしぎな君が代 (幻冬舎新書)

ふしぎな君が代 (幻冬舎新書)

たびたび論争が起こる君が代。どのような立場から考えるのであっても,まずは実態をよく知るべし,ということでものされた新書であり。歌詞の由来,作曲,国家としての認識・普及,戦後の生き残りと論争までを一通り描く。

国歌として楽曲の強度と完成度が高くなかなか他に変えるのは難しそうという著者の見解はある程度同意できる一方,戦後すぐいくつも作曲されたという国民歌・愛国歌などのほうが,スポーツの応援などで ”素朴な愛国心” を表明するには適切だろうなと感じた。君が代を廃止するのでなくても,国歌・準国歌としてそうした曲を追加するというのはありかもしれない*1

君が代のみならず,各国の国歌も,時代が変わるに連れてその意味や解釈,社会における位置づけが変化してきたことを知った。山口修がいうところの「脈絡変換」の一例といえよう*2

君が代についても,戦前戦中の天皇賛美の歌から,天野貞祐や政府見解がいうような象徴天皇制の戦後日本を象徴する歌へと変化したと位置づけたいのならば,内外問わずそれと認めてもらえるように,過去の戦争犯罪や植民地支配を正視し,斉唱の強制もやめるべきであろう。

現状の日本社会,政府の動きはそれとまったく逆行するものであり,結果として君が代は,象徴天皇制ではなく,大日本帝国へ回帰せんとする志向を象徴するものと受け止めざるを得なくなっているのではないだろうか。

*1:国歌というのは一曲でなければならないというわけでもなさそうなのも本書で初めて知った

*2:『応用音楽学放送大学出版,2000年