Jablogy

Sound, Language, and Human

NPRでの日本におけるジャズの歴史解説

上の記事が面白かったのでメモを箇条書きで残してみる。 戦前から戦後すぐくらいまでを扱った書籍は結構あるけど、現在までを通史的に扱う視点にはあまり触れてこなかったので新鮮だった。

以下メモ。

  • 1910年ごろ、太平洋を行き交う定期船上のオーケストラがあった。その寄港地サンフランシスコ・シアトルで買われたシートミュージックが最初に日本人が接触したジャズ(フォックストロットとか)

  • アメリカの植民地だったフィリピン人のミュージシャンが神戸・大阪、上海などで演奏。日本人がアドリブを最初に聴いたのはフィリピン人からだった

  • 1929年に「ジャズ」の語が使われた曲のレコードがでた

  • この音楽はダンスホールに結びついたもので「モボ」や「モガ」は日本の"flappers " や "dandies" にあたる

  • 女性の「タクシーダンサー」と踊るためのチケットが一曲あたり一枚だったため、ミュージシャンたちは曲を短く(ソロなし)してギャラを稼ごうとした

  • 1923年の関東大震災で多くのミュージシャンたちが神戸・大阪へ逃れた

  • この頃のジャズは余裕ある都会の中上流の人がエンターテイメントとして享受したもので、世界的な新流行という意識だった。

  • 地位もクラシックほどには高くなかった。地方民や右翼からは非難もあったようだ

  • 30年代からのジャズへの非難はまず排外主義者よりもクラシック界から起こった

  • 戦後、進駐軍をエンターテインするためのジャズバンドが必要だったが、軍だけではミュージシャンが足りず、日本人ミュージシャンを雇った。戦後の窮乏の中、ミュージシャン達はこの仕事で潤った。軍は手持ちのアレンジを現地ミュージシャンに与えて学ばせた

  • 秋吉敏子ビバップを演奏することにこだわった。軍ではビバップはあまり好まれなかったが、ダンスよりバップが人気の黒人将校のクラブがあった。そこには当時ハンプトン・ホーズエド・シグペンがおり、ナベサダも彼女のバンドにいた。

  • 真正性が40年代後半から50年代・60年代にかけて問題として浮上してきた。ミュージシャンの自然な成長の段階で必要なことだというのもあったが、ずっと「日本の○○」というようにコピーをするのは続いていた。60年代になって初めてコピーから離れるべきと言われだした。批評家はカテゴライズをするばかりで真正性の問題には役立たなかったw

  • 独自性やエキゾチシズムを求めて日本音楽へ向かったミュージシャンもいた。61年には白木秀雄が琴奏者とバンドを組んでベルリンへ遠征し高評価を得た。67年のニューポートでシャープス・アンド・フラッツは日本の民謡を演奏した(「いつもはベイシーやウディ・ハーマンをやってるけど、アメリカにはまだ本物がいるんだから意味ないよね」)。

  • いまの日本では、ジャズは決してメインストリームではないが、熱心で真剣なファンがいて、その気になれば詳しい情報も得られる。

  • "jazz represents freedom for everyone" なんてことはない。それはアメリカが現実に持っている権力によるものであり、みんなが根っこではアメリカ的なものを求めてるということもない

  • いまのところジャパニーズ・ジャズと呼べるようなものはない。興味深いことに、日本の楽器を使いたがるのはむしろ非日本人である

  • 海外で活躍する日本人ジャズミュージシャンも出てきており、日本がそういうミュージシャンを生み出せるということに驚くこともなくなっていると思われる。かつてあったスティグマはもはやないのである。

英語史のアウトライン

この本を読んでみてとてもわかりやすかったので、英語が各時代ごとの背景によってどういう特徴をもつことになったかのあらましをざっくりレジュメにしてみた。レジュメなのでもちろん落としていることはたくさんあるけど、一応、記憶しやすいツリーの形に縮約したつもり。

/* 政治史だけ勉強してるときは各事件の意義がわかりづらかったものだけど、英語を軸に見ることでそれぞれの出来事の性格や重要性がイメージしやすくなったように感じる(音楽史でも同じことなんだけど) */

古英語 (450-1000)

  • 七王国の繁栄(5c-9c)
  • 『ベオウルフ』(8世紀)

  • デーン人侵入・ヴァイキング時代
    • Old Norse(古ノルド語)との接触
  • アルフレッド大王(871年-899年)

  • 活用語尾の消失へ
    • 互換が同じで活用語尾だけ違う英語と古ノルド語の共存する地域
    • → 語尾を落としてコミュニケーション

中英語 (1000-1400)

  • ノルマン・コンクェスト (1066)
    • ノルマン・フレンチ流入
    • 英語の地位低下
      • → 英語は口語中心に、文語の軛なく自由に変化するようになる

  • プランタジネット朝 (1154)
    • フランスに広い領地を持つヘンリー二世即位
    • →セントラルフレンチの流入へ

  • 借用語
    • フランス語
      • 政治・経済・法律・軍事・服飾・料理など多様な分野で
      • 食肉・製品、などハイソな分野に
    • ラテン語
      • 宗教、法律、医学などの専門分野
    • アラビア語
      • 十字軍、仏・羅・西語を通じて
      • 錬金術・化学、数学など

  • 英語の復権
    • 失地王ジョン、フランス領地を喪失 (1204)
      • フランスとのつながりが薄れる
    • フランスとの百年戦争(1337-1453)
      • フランス語の敵性語化、英語への国語意識
    • チョーサー『カンタベリー物語』(1387-1400)

初期近代英語 (1450-1700)

  • 社会経済的な背景

  • 内面史
    • 大母音推移
      • 母音の舌の高さが一つずつ高い方へズレる、一番高い iː と oː は二重母音に
    • ゼロ派生
      • 接辞や複合語での生産力低下。代わりに、活用語尾がないことによる品詞転換
    • 助動詞、前置詞の発達

後期近代英語 (1700-[1950] *1 )

  • 産業革命によって大英帝国が隆盛
    • 鉄道など交通機関の発達
      • ロンドン中心の標準英語が各地へ

  • 科学的合理主義、ナショナリズムの高揚 → 標準化、固定化の必要性 → 規範文法書や辞典の編纂が盛んに(18世紀)
    • スウィフトら、アカデミーの設立を促すも不成立(1712)
    • Lowth, Robert. (1762). A Short Introduction to English Grammar.
    • サミュエル・ジョンソン、初の英語辞書
    • 国家のhonourをかけたOEDの編纂
    • Fowler's MEU(イギリスの権威ある語法指南書として長く親しまれる)
    • ウェブスター辞書(米式綴りの基礎)

現代英語 (1950-)

  • コンピュータ、インターネット用語

  • リングワ・フランカとしての英語

  • 米語の英語への影響

参考文献

*1:英語学では20世紀から現代英語 (Present day English) という区切りにするようだが、標準化の話をまとめるには第二次大戦あたりで切ったほうがわかりやすいと感じたので、ここでは50年で切ってみた

英語オンライン辞書まとめ

先日アップした英語教材・リソースの記事中,オンラインで利用可能な辞書については過去にTwitterでつぶやいたもののまとめを参照するにとどめていた。そのまとめからも一年たち,使い方や使っているサイトも変化してきているので,ここでアップデートをはかろうと思う。

※2016年1月17日,goo辞書の記述を改訂。 ※2015年2月7日にさらに改訂を加えた。
※2015年12月25日,英英辞典の紹介に Colins Cobuild を追加

ここにリストした多種類の辞書を引く理由は,「ひとつの単語をさまざまな角度から見ることで,発音・綴り・訳語・定義・語源・類語・用例・ヴィジュアルの相互ネットワークを形成し,深い理解と記憶の定着を助ける」ことである。もちろんリーディングやライティングの際に適切な語義や用法を調べるうえでも有用だ。

英和辞典

Weblio辞書 - 英和辞典・和英辞典

研究社の『英和中辞典』に加えて,WiktionaryJST科学技術用語日英対訳辞書などさまざまな辞書を同時検索してくれる。といってそれほど詳しい情報が得られるわけではないがマイナーな語でもヒットする可能性は高い。

メインの研究社『英和中辞典』(第6版)は見出し語・複合語など約90,000のごくスタンダードな英和辞典で,文法的な情報,発音,用例と必要な情報をおさえながらスッキリと分類されまとまっている。

用例も複数辞書のものを見ることができるので,とにかく最初に引くべき辞書として信頼している。

英辞郎 on the web

翻訳者が集団で作ってるという「英和・和英対訳データオンライン検索サービス」。なので実務的な例文・訳例が多い*1。単語を引くだけでなく,数語のフレーズで検索しても直訳ではない自然な日本語が載っていたりする。読書猿Classicの記事で紹介されている検索Tipsを使うとよりうまくヒットさせられる。特に英単語と日本語を同時に検索するテクは私もよく使っている。

ほかに,語数が多いこと,新語に強い点なども長所だが,逆に文法・語法の情報はあまり載っていない(名詞の可算/不加算すら区別されていない。動詞がどんな構文,前置詞を取るかなどもわからないことが多い)。また語義の順番も使用頻度順じゃないので重要度がわかりにくいというきらいはある。あくまで翻訳するときに参考にすべき訳語・訳例のデータベースであって辞典ではないのだと認識しておく方がよいのだろう。

※ [2015/05/12追記] 2015年4月から無料版の表示に変更が加えられた。当記事のコメント欄参照。

なお,英辞郎Weblioも,ChromeFirefox向けの拡張機能が出ており,ワンタッチで検索したりマウスオーバー表示したりといったこともできるようになっている。

研究社 - ルミナス英和・和英辞典

英和中辞典の後継的な学習辞典(収録語句10万)という趣。赤青黒の配色や囲みなど,レイアウトもいかにも学習辞書という印象だ。有名なジーニアスと似た感じで語法をかなりしっかり掲載していたり,中核的な語義からの派生を図示したりと,とても気が利いている。

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検索欄がスクリプトによるもののようで,後述するブラウザ拡張から直接検索できないのが残念である。可能であったらこちらをファーストコールにしたのだが。iOS上で使うぶんには他と条件は変わらないので,そちらでは積極的に使っている。

goo辞書 - ランダムハウス英和大辞典

goo辞書で引ける英和辞典は,以前は『プログレッシブ英和中辞典』(第4版)だったが,2015年の末頃から『ランダムハウス英和大辞典』に変更になったようだ。

この辞書は研究社の英和大辞典とともに定評のある大辞典で34万5千語を収録しているとのこと。大抵の語,語義,成句は見つけることができるだろう。

同名の米語辞典からの翻訳によって作られていることで,単に近似的な日本語単語を列挙するのではない,意味の実質に即した訳が与えられているため,引いていてしっくりくることが多い。類語解説の囲み記事などもツボをおさえたいいものが多数ある。

94年の第2版以来アップデートされていないため,コンピュータ用語など新しい語に弱いのは仕方のないところ。goo辞書には専門用語辞典も収録されているのでそちらで補うのもよいだろう。

また,語法解説などがそこまで詳しくされていないとか,マイナーな語義まで載っていることで中心的な意味がどこか見えにくかったりするなど,基本的な語彙を学習するための辞書としては使いにくい面もあるかもしれない。

とはいえ,長年にわたり広範な支持を得てきた信頼できる辞典が引けるのは大変ありがたい。「WEBの辞書は信頼性が低いから~」というクリシェも遠からず過去のものになるだろう。

英英辞典

Longman English Dictionary Online

本辞書(LDOCE)の定義文は2000語レベルで書かれている。語彙的な負担が少ないのはよいが,持って回った言い回しになってて余計わかりにくいことも。語義の配列が完全に頻度順なので,多義語がもつ複数の意味の内どれが重要か判断したい時参考になる。

Oxford Learner’s Dictionaries

こちらは3000語レベル。2015年1月後半ごろ,サイトのデザインがアップデートされ,辞書もOALDの第9版が使われるようになった。同意語やコロケーション,語源も表示されるようになり,複数の語を検索欄に打ち込んでイディオムや句動詞を検索することもできるようになった。大変使い勝手がよくなっており,おすすめである。また,英米それぞれの発音が発音記号で示されていて,さらに音声で聴けるのもよいところだ。

LongmanもOxfordもそうなのだが,例文がコーパス(実際に使われた英語のデータベース)からそのまま持ってきたものであり,定義文よりも語彙レベルが高くなっている。文脈の情報もないので意味や構文が取りづらいこともしばしば。なので,例文は英和辞典から拾ったほうが速いと思われる。

これら学習者向けの英英辞典は,語の定義を簡単な英語で定義・説明してくれるので,英和辞典の訳語を見ても多義的すぎて理解しづらいときなど,その語がどういう概念なのか知り,微妙なニュアンスを掴むのに有効である。

例えば “dissident” という語を引いてみると,Weblio英和辞典では「意見を異にする; 反体制の」という訳語があてられている*2が,Oxford Learner’s Dictionaries では次のように定義されている:

a person who strongly disagrees with and criticizes their government, especially in a country where this kind of action is dangerous 〔政府に対し強く反対し批判をする,特にそうした活動が危険な国においてそれを行う人物〕 (http://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/dissident)

平和な国でただ単に政治に不満をこぼすようなものではなく,命の危険すら感じるようなニュアンスであることがわかるといえよう。

Colins Cobuild Dictionary

LDOCE,OALD とともに有名な学習者向け辞典。語義の説明がフルセンテンスになっているので,実際の使われ方が定義文の中でそのまま見て取れるようになっている。定義の内容や分類も LDOCE,OALD とは微妙に違っていることがあるので,それらを引いてもピンとこないときに Cobuild を引くと「あー,なるほど」とわかる場合もある。

Oxford Dictionaries

こちらは語彙制限のされていないネイティブ向けの英語辞書,Oxford Dictionary of English が引ける。ODEの説明はこちらに譲るが,収録後数が多くマイナーな用法もわかったりする。一番の特色は,中核的な語義からツリー状・階層構造状に語義が配置されていて,派生関係がとてもわかりやすくなっている点である。

語源辞典

Online Etymology Dictionary

ウェブ上で引ける語源辞典としては決定版か。記述する上での語彙の制限がなく,書き方も独特なので慣れるまでは少しかかるかも。あと英語史の知識が多少はないと,どこから借用したなどの情報が理解できないだろう。英語史の入門はこちらを参考に。

元の意味とその歴史的な変遷を知ると,いま使われている多義語のそれぞれの用法がどのように派生したかわかり,多義語の全体像を立体的・統一的に把握することができる。語源を知り,接頭辞+語根でもともとの意味を掴むと,現在の単語の綴り・字面そのものがキーになって語義を思い出せるという利点もある。

アルクの語源辞典

こちらは同じ語源の単語がまとめられている。同じ語源でもラテン語時代の語尾活用が違うために現在では綴りや発音がだいぶ異なっていることがある。そうした単語の意外な繋がりを知るのは楽しい。

※2015年2月7日追記
アルクのサイトが改装されたため,この辞典にはアクセスできなくなってしまった。便利だったので残念だ。代替になる同じ語源の語をまとめたサイトにはGogengo! - ゴゲンゴ!などがある。また,「知りたい単語を Online Etymology Dictionary で調べる → 語源になっている語を同辞書で検索する」という手順でも同語源の語を集めることは出来る。

ほか,一般の辞書サイトの語源欄については#485. 語源を知るためのオンライン辞書を参照。

Thesaurus (類語辞典)

Thesaurus - Merriam-Webster Dictionary

  定義と例文を示した上,同意・類義・反意語を分けて提示してくれる

Free Online Thesaurus from Macmillan Dictionary

  検索語の定義ごとに同意語をまとめる

The Free Dictionary - Dictionary, Encyclopedia and Thesaurus

  Weblio的な複数辞書の串刺し検索サービス。Thesaurus 欄は検索語に対して
  ヒットした類語それぞれの定義を示してくれる。学習用途では一番よいかも。

シソーラスは英語の類語辞典。ネイティブが書き物をするときに言い換えの単語を探したりするのに使う。

学習者も,同意語・反意語をまとめて覚えておく――ひとくちにまとめて唱えたり,ある単語を見たとき別の同意語を思いだすようになどする――とよい。

なお,英和辞典の項で紹介したWeblioには日本語の類語辞典がある。ブログの執筆にも使えるし,翻訳していて英和辞典の訳語ではしっくりこないときに類語辞典を引いてみるとぴったりしたものがみつかることもある。

名言集・ニュース・画像・スラング

辞書ではないが言葉・単語について調べるのに便利なサイトを紹介。

Quotation Search - The Quotations Page

英語では名言・格言を集めるのが盛んで,Twitterボットなども沢山あるが,こちらでは古今東西の名言を検索できる。類似サイトとくらべて,わりと有名な古典的なものがヒットする。『悪魔の辞典』なんかも検索対象だったり。

格言は短い中に意味がつまっているので印象が強くイメージが湧きやすいのが英単語の例文としてよい。レトリックや文法が難しかったりいろいろな意味にとれたりというのは難しいところだが。

Google News

各社のニュースを横断して検索できる。英語学習でであるごく普通の単語でも検索してみるとタイトルにそれが含まれたニュースはあるものだ。『速読英単語』シリーズがあることからもわかるように,一つの話の中で覚えた語というのは忘れにくいのが利点(あ,あの話でよんだあれだった,というのはなぜかよく思い出せる)。

Google 画像検索

訳語や定義を読んだだけではいまいちはっきり掴めない語でも,画像を見てみれば一発,ということがよくある。

例えば “stack” を英辞郎で引くと

〔干し草・書類などの〕山,積み重ね,堆積
書棚の列,図書館の本の保管場所◆本が棚に保管されている場所で通常一般公開されていない
《コ》スタック,一時的記憶装置
煙突,排気筒
(http://eow.alc.co.jp/search?q=%5bstack%5d&ref=crx)

などと多義的で,いまひとつ統一感がなく釈然としない。

ところが画像検索に “stack” と打ち込んでみればまさに百聞は一見にしかず。「ああ,こういう風に積み上がったもののことね」というのがお分かりいただけよう。

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Urban Dictionary

英語の俗語とスラング辞書 | 英語 with Luke

TwitterやWebで音楽の記事など読んでいるとわりと俗語にも出くわすことは多い。スラングは普通の学習辞書には載ってなかったりするので,そういう時に頼りになるのはこれらのサイト。

横断検索・串刺し検索できるブラウザ拡張

Chrome ウェブストア - Search Center

Google ChromeOperaユーザーであれば,この Seach Center という拡張を使うと,ウェブページ上の単語を選択して右クリックから検索したり,複数の辞書サイトを一括で同時に検索したりできる。強くおすすめ。

Omnibar :: Add-ons for Firefox

※本アドオンはすでに更新されておらず Firefox ver.49 以降では動作しない。とても便利だっただけに残念である

Firefoxユーザーにはこちらの拡張がある。基本的にはChromeのOmnibarと似たような感じで,検索エンジンの略号を指定することで検索エンジンの使い分けを可能にする拡張なのだが,@マークに続けてカンマで区切りながら検索エンジンを列挙することで,一度に複数のサイトで検索することが出来る。

例えばGoogleの略をg,Wikipediaをwi,Amazonをa と設定したなら,検索語と一緒に @g,wi,a と入力するとこの三つのサイトで検索される。よく使う組み合わせ(英和辞典,英英辞典をまとめて,とか)を定型文としてIMEクリップボード管理ソフトに記録しておくと使い分けが捗る。

この拡張の使い方については,こちらの解説が詳しく,参考になる。

学習法

以上長々とオンライン辞書を紹介してきた。

これらのサイトで,覚えたい単語を検索するわけであるが,単語やサイトによって記述によしあしが出てくるものなので,適宜わかりやすいと思うしかたでテキストファイルにまとめていく。

Markdown記法などで検索語を見出しにしておくと,アウトライン機能のあるエディタであれば見出しの単語だけ表示されるので,ノート兼単語帳にできる。新語を調べたときは上から追加し,復習するときには忘れた単語をアウトラインの上に持ってくるようにすると,覚えていない単語がノートの上の方に集まる仕組みだ。

なお,リーディング中に知らない単語に出くわして検索した場合,面倒でもその文と出典を書いておくべきである。復習や引用のしやすさ,「あ,この話でよんだあれだ」という文脈による記憶の定着がまったく違ってくる。

 * * *

これだけの辞書が(ネット通信費はかかるが)無料で・高速に・編集可能な形で引けるというのは以前には考えられないことである。この状況を利用しない手はない。リソース配分を考えるなら,学習用辞書はwebで済ませてしまい,よりマニアックな・専門的な辞書*3や参考書にお金を割くのもいいかもしれない。

*1:英語に対応したこなれた日本語表現を探したいときは英日・日英 翻訳訳語辞典 — 辞遊人(DictJuggler)というのもある

*2:http://ejje.weblio.jp/content/dissident

*3:私ならOEDや『ジーニアス英和大辞典』のPC版なんかが欲しい。が高い

『パンクなパンダのパンクチュエーション』 『ジャズで学ぶ英語の発音』 『英和翻訳表現辞典』 『職業としての学問』 『科学を語るとはどういうことか』

最近読んだ本のメモ。英語本が3冊、メタ学問本が2冊。

リン・トラス『パンクなパンダのパンクチュエーション』

パンクなパンダのパンクチュエーション―無敵の英語句読法ガイド―

パンクなパンダのパンクチュエーション―無敵の英語句読法ガイド―

英語の句読法にあるよくある間違いや過剰なこだわりについて(ブラック)ユーモアたっぷりに綴ったエッセイ。

「正しい日本語」をめぐってよく人々のあいだで議論がかわされるように、英語のネイティブたちも記号を使い間違えたり、使わないことにこだわったり、逆に気軽に使いすぎてしまったりといった問題があるのだ、ということがわかって親近感がわいた。

アポストロフィ、カンマ、(セミ)コロンについてもネイティブたちの捉え方、コンセプトがよく見えてきた。

全体的に面白く読めたが、翻訳の文体が生硬な「である・だ」体と“女性らしさ”を強調した「役割語」の口語的口調のあいだを唐突に行ったり来たりするのは不自然に感じた。

中西のりこ・中川右也 『ジャズで学ぶ英語の発音』

ジャズで学ぶ英語の発音(CD-ROM付)

ジャズで学ぶ英語の発音(CD-ROM付)

英語がもつ特定の音素が特徴的に使われている曲を覚え歌うことでその音素の発音をマスターしようという本。

ジャズ曲を英語学習に用いる際の利点について著者の一人、中川右也はこういっている:

 ジャズの歌詞は、1曲がひとつの物語となっています。英文法の参考書にあるように、英文がひとつひとつ独立しているのではなく、適度な文の長さで、意味が繋がっているため、記憶にも残りやすく、英語学習にはとっても効果的なのです。川のように前後の英文が自然と流れて、ひとつの物語を作り上げているのです。また・メッセージ性が高く、感情豊かなジャズだからこそ、歌い手の気持ちを音としても表現でき、感じられるよう、歌詞にあるひとつひとつの言葉の選択には配慮がなされています。(p. 69)

この点はまったく同意。30年代~50年代のジャズ・ソングはロマンチックかつドラマチックなので気持ちを込めて言葉を覚え発生するにはほんとうに良いし、歌詞であれば3~4行に渡る長い文も楽に暗記できてしまう(私でも30曲くらい覚られている)。

対して、あくまで詩であるために文法的な破格が多く、解釈がむずかしい場合が少なくないことは欠点といえるだろう。本書での文法的な解説もあまり細かいところまでは踏み込んでいないので、かなり上級者でないと不明な点が残ると思われる。「Route 66」の解説は誤りやすい多義語の説明が秀逸で蒙を啓かれた。

また歌である以上、発声(wpm)はまったく速くないので、リスニングやスピーキングの訓練にはあまりならないかもしれない。文中でアクセントが置かれる場所をつかむのにも良いのだが、場合によっては普通アクセントが置かれない機能語も長く伸ばされたりするので、初心者は戸惑う可能性がある。

なんにせよ、繰り返し聴いて、自分の口で声に出すのは大変よいことではあろう。

中村保男編 『英和翻訳表現辞典 ―― 基本表現・文法編』

英和翻訳表現辞典 基本表現・文法編

英和翻訳表現辞典 基本表現・文法編

わりと一般的な英単語がもっている意味・論理のはばをしっかりとらえ、こなれた和訳をあたえている辞書。

とはいえ、著者が訳している時に突き当たった文脈においてあてはまる訳なわけで、実際に翻訳作業しているときに参考にできるかは疑問が残る。著者と同じ文芸翻訳でなら応用できる場面も多いかもしれないが、それ以外だとどうだろうか。

ともあれ、訳した和文がどれくらいまで英語の字面と離れたものになるか、という点では大変参考になった。

マックス・ヴェーバー 『職業としての学問』(1980 [1919])

職業としての学問 (岩波文庫)

職業としての学問 (岩波文庫)

知識人論というよりは、学問と言うもの全体をメタからみて社会全体に位置づける話だった。

「呪術からの解放」以後の世では、究極の真理・世界の意味を決定づけるような価値を学問の中の方法・理論から証明することはできないので、そうしたものにコミットすべきじゃないというのが骨子のようだ。(もちろん「価値自由」の話とも関わる。)

よって(大学)教師も宗教化・預言者や政治家のような「指導者」であるべきではないという。同じ社会学でも先生のカリスマ的な影響力=感染を重視する宮台真司とは正反対に見える。「指導者」でないこととカリスマ性のある教師であることは両立するのかもしれないが。

あと、寝食を忘れて研究に打ち込んでしまうような「情熱」をもって「職業(ザッヘ)」に邁進すべしということもいっているけれど、それを可能にする「情熱」については生得的あるいは職業につくまえに身につけているべきと前提してるようだ。ほっといてもつい勉強しちゃう、研究しちゃうみたいな人はいるよね的な。

なんらかの外的な条件で成立するモチベーションについて言ってないかなと思ったけどそれは虫のいい期待というものか。

須藤靖・伊勢田哲治 『科学を語るとはどういうことか』

科学哲学に懐疑的な科学者がひたすら科学哲学者を批判しまくるという強烈な対談。するどい攻撃の連続にもひるまずしっかりとしたガードを続ける様子はさながら言論のカラテであり、二人は知性ニンジャであることが強く疑われる。

科学哲学の内容そのものよりも、伊勢田先生が哲学ってこういうスタイルですよ、と解説しているところが興味を引いた。以下その抜き書き。引用はすべて伊勢田発言。

 科学哲学の業界では、クリシン型でお互いを評価します。私が相対性理論についての無理解をさらした諭文を欝いたら、他の論文も真面目に読んでもらえなくなるでしょう。しかし、そういう科学哲学業界に住む我々でも、それと違う基準で書かれたものが哲学業界全体を見れば存在し、違う基準で評価する人が存在するということは理解しているし、しかもそういうものを読んで思考を触発されることもあればうがった見方に感心することもあるわけです。  こういう考え方が哲学者の身に染みついているひとつの理由として、哲学では古典を読む訓練があるというのが大きいと思います。昔の哲学者は時代的な制約もあり、今から見れば変なことも言っています。しかし、今に生きるような議論もしているからこそ現在でも読まれ、研究されているわけです。その意味で、哲学は「良いところをすくい上げて読む」という読み方が自然に身につく業界だと言っていいかもしれません。(pp. 31-2)

哲学の流儀・スタイルの4類型

  1. クリシン型
    • 「筋道を立て、隠れた前提を明らかにしながら、できる限り明晰に考えること」(p. 28)
  2. 思考触発型
    • 「読者を考えさせるのがよい哲学的文章だ」(p. 42)
  3. うがったもの勝ち型
    • 根拠などより見方の面白さ。"誰も思いつかないような「へー」と感心するようなことをいったらいい" (p. 42)
  4. 文献読解型
    • 解釈の面白さ、あたらしさ、もっともらしさ。普通の哲学研究者

 そのとき〔伝統的な哲学の問題を論じるとき〕に、前提の善し悪しまで議論するんですよ。つまり、ある前提を立てたらこの証明ができた、というとき、その前提を我々は受け入れるべきなのか、というところまでさかのぼる。哲学があまり蓄積的じゃない理由のひとつでもあるのですが、このとき、みんな自分で前提から組み立てるんですよ。みんなそれぞれ違うものを組み立てるんですね。他の人から見ると、「なんでそれを前提に入れているのかわからない」というようなことも当然起きている。それをお互いに壊し合って、また個々に新しいものを作る。(p. 249、亀甲カッコ内は引用者)

 強いて言うなら、「科学者たるもの根拠の無い主張を受け入れてはならない」というのは、科学のエートスとして割と共有されている前提ではないかと思います。それを科学者自身よりも徹底して推し進めるのがヒュームだったり反実在論だったりするわけです。だから、共有できる前提は無くはないんですよ。でも、そうは言っても帰納は必要だし、電子の存在を受け入れるなと言われても困ってしまう。だから、すでにひとつ共有される前提とそこから導かれる結論はあるのだけれど、その結論では困ると思う人が、それに対抗できるような共有される前提を探している、と言う方が正確かもしれません。  もちろん、そんな都合のいいものがあるかどうかはわからないし、発見できたらすごいでしょう。でもそういう共有できる前提が見つかるかどうかにかかわらず、そこには問題はあるわけです。問題があるからには考えようじゃないか、というのが哲学のスタンスということになると思います。(p. 251)

 ***

私もどちらかと言えば社会科学よりの教育・トレーニングを受けてきたので、哲学・人文科学のマナー・ディシプリン(規律=訓練)とそれに対する説明には関心がある。そういう「人文科学哲学」のようなものがあれば読んでみたい。

英語教材・リソースの紹介

Twitter上の友人が英語学習法を模索してるとのことだったので、手持ちの有用なリソースを晒してみる。リーディング中心、大学生以上くらい向け。

ネット上のリソース

WEB辞書

以下のまとめ参照(コメントにも情報あり)。

※2014/06/03追記
上のTogetterから時間が経っておすすめすべき内容が変わったので、新たな記事にまとめ直した。 ぜひこちらを参照して欲しい。

学習法

スクリプト付き音声

だいたい難易度順。音読、ディクテーション、シャドーイングなど使い道はいろいろ。もちろんただ聴いてもよい。

こちらでもいくつか紹介されている。

発音

音声の知識があるとリスニングやスペリングも楽になる。発音記号を学べば辞書から音声が想像できるように。

教材紹介

辞書や参考書のしっかりしたレビュー。翻訳者向けだが大学生・社会人以上なら同様に参考になるはず。

書籍

基本

DUO 3.0

DUO 3.0

短い例文の中に頻出単語を詰め込んだ単語帳(6000語レベル)。ネイティブがチェックしたこなれた例文なので、暗唱したりシャドーイングしたりと、いろいろ使い道がある。別売りCDはDUO 3.0 / CD復習用だけで十分だろう。
 

どんどん話すための瞬間英作文トレーニング (CD BOOK)

どんどん話すための瞬間英作文トレーニング (CD BOOK)

「英語上達完全マップ」で紹介されている学習法。中学レベルのシンプルな和文をみて、英語文を瞬間的に口頭で生成する。文法が自動化されチャンクが大きくなるのでリーディングの速度もあがる。

発音

大人の英語発音講座 (生活人新書)

大人の英語発音講座 (生活人新書)

英語のリズム、発音記号と音声、つづり字と発音の関係(フォニックス)を学ぶことができる。フォニックスがわかると初めてみる単語でも英語ならこう読むというのがおよそ分かるようになる。強くおすすめ。

文法・語法

ロイヤル英文法―徹底例解

ロイヤル英文法―徹底例解

大学受験レベルまでの文法を網羅した辞書的な文法書。細かなニュアンスの解説に光るものがある。今買うならiOSアプリ版Androidアプリ版、もしくは姉妹編的な『表現のための実践ロイヤル英文法』がいいかも。
 

英文法解説

英文法解説

受験レベルを越え、学校文法の限界を解説で示してくれていたりする。名詞構文の解説は白眉であり、翻訳者からも定評がある。最近はまずこれを当たるようにしている。
 

現代英文法講義

現代英文法講義

学問としての英文法のレベル。「この文法事項はいったいどうしてこうなっているのか」というメタレベルから気になるこだわり派にはたまらない一冊。少々値が張るがそれだけの価値はある。
 

Fowler's Modern English Usage

Fowler's Modern English Usage

英語ネイティブがライティングするときに参照する権威ある用字・用語辞典といったおもむき。細かい語法の禁則がわかったりする。

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英文を読んでいてわからないことがあればこうした文法書で調べることになるが、1万円以下の価格帯ではこれがあれば十分という一冊はないようで、いまは上の四冊を併用している。

英文解釈

超・英文解釈マニュアル―学校で絶対教えてくれない

超・英文解釈マニュアル―学校で絶対教えてくれない

頭から英文を読んでいくとき、文章の構成要素をなにを手がかりにして把握していくか、英文の配列とはどういうふうになっているか、ということに焦点を絞った本。マニュアルの名に恥じないシンプルな応用可能性。
 

英文解釈教室 改訂版

英文解釈教室 改訂版

精読系文法解釈本の定番。わりと高レベルな、しかし英文を読んでいると普通に出くわすような文法・構文を扱っている。基本的な文法事項をおさえたらこうした本や各文法事項のモノグラフを読むしかないかなと思っているところ。
 

英語の発想 (ちくま学芸文庫)

英語の発想 (ちくま学芸文庫)

日本語と英語の発想の違いを対照言語学にもとづいてクリアにし、両者の対応にもとづいて適切な翻訳を行うための概説書。日英語の対応がわかってくると逆に訳さなくても意味がよく取れるようになるという副次効果がわたしにはあった。強くおすすめ。

「グルーヴ」概念の変遷

 フミカレコーズ仲間のやおきさんが「グルーヴ」という言葉がマジックワード的で問題があるのではということで、次のエントリをアップされていたので、語源からどのような変遷があったのかざっと調べてみた。

 本来はOEDを引くべきだが、とりあえずの下調べというところで、手軽にひけるOnline Etymology Dictionaryからあたってみた。

Online Etymology Dictionaryより

groove (n.)
c.1400, "cave, mine, pit" (late 13c. in place names), from a Scandinavian source, cf. Old Norse grod "pit," or from Middle Dutch groeve "furrow, ditch," both from Proto-Germanic *grobo (cf. Old Norse grof "brook, river bed," Old High German gruoba "ditch," Gothic groba "pit, cave," Old English græf "ditch"), related to grave (n.). Sense of "long, narrow channel or furrow" is 1650s. Meaning "spiral cut in a phonograph record" is from 1902. Figurative sense of "routine" is from 1842, often deprecatory at first, "a rut." (groove (n.) - Online Etymology Dictionary)

groovy (adj.)
1853 in literal sense of "pertaining to a groove," from groove (n.) + -y (2). Slang sense of "first-rate, excellent" is 1937, American English, from jazz slang phrase in the groove (1932) "performing well (without grandstanding.)" As teen slang for "wonderful," it dates from c.1941; popularized 1960s, out of currency by 1980. Related: Grooviness. (groovy - Online Etymology Dictionary)

 ではまず、この二つの項目の内容をざっとまとめてみよう。

 Grooveの語源にあたる語たちは、もともとは古英語、古高地ドイツ語などにおいて「小川、(排)水路」をあらわす意味から、古ノルド語「穴」中オランダ語で「畝」などの意味に変化した。15世紀にgrooveの形になった時には「穴、鉱道、洞穴」などの意味を持っていたらしい。

 17世紀には「細長い溝、水路、畝」といった意味になり、1902年には「蓄音機〔の蝋管〕に刻まれた螺旋状の溝」を表す言葉として用いられた〔Rare Groove(珍しいレコード)という1980年代後半イギリスにおけるムーブメントの名は、この刻まれた溝をもってレコード自体を指す換喩になっているといえよう〕。

 groovyという形容詞形がジャズのスラングで「(これ見よがしでない)いい演奏をする」という意味で使われたのが1932年である。ジャズのスラングにおける「in the groove〔レコードの溝にハマるということだろう〕」という用法から、1937年には「一級品の、素晴らしい」という意味で俗に使われるようになった。41年にはティーンの間のスラングで単に「素晴らしい」を意味するようになっていて、この使い方は60年代には一般化した、とのことである。

考察

 以下は録音物のタイトルに現れていた用法を参照し、一般での使用を推測した考察である。

 注目すべきポピュラー音楽史上の用法では、grooveという語はビバップの頃に楽曲やアルバムのタイトルで使われており、ジャズマンの間でのスラングであったことが偲ばれる。例:

 次いで、R&B/ソウルでもリズムのよさをあらわすのに用いられ、そしてなによりファンクにおいて中心的な価値をあらわす言葉になったものと思われる。

/* 興味深いことにもっとも典型的にgroovin'な音楽であろうJames Brownの歌詞にはあまりgrooveという語は出てこない模様。 */

/* 筆者の「grooveしている」音楽のイメージは間違いなくこの後二者によって形成されたものである。特にバーナード・パーディのものはVHSテープが擦り切れるまで視聴した。その中でパーディはgrooveの語を連発している。*/

 このあたりのファンキーな黒人音楽のリズムのよさ(特に適切なズレを保っているがゆえにもうそこしかないというタイミングで発音されているようなそれ)をあらわす意味が現在のこの語のイメージの中心、典型だろう。

 そしてここを発端として、それほど黒人音楽的でないリズム一般についてもそのよさをあらわす用法へとgrooveの意味は広がっていったようだ。例えば、ジェフ・ポーカロの教則ビデオにもgrooveの語は冠されているし、ロック・ミュージシャンも場合によってはグルーヴという語を使うだろう。

 英語圏でドラム演奏のリズム・パターンを指してgrooveという用法も同様の経緯であろうと推察される。

 さらにはある人のもっているリズムの雰囲気や特徴を指してgrooveという場合もある(例えば「スティーブ・ガッドのグルーヴはしかじかだ」など)。

 *

 R&B期以降の記述は推測にたよっている部分が大きいので、今後、裏付けとなる資料が得られるとよいと思う。雑誌などのコーパスにあたれるとよいのだろうが。

川喜田二郎『発想法』

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

言わずと知れたKJ法を提唱した川喜田二郎の名著。梅棹忠夫の『知的生産の技術』(岩波新書、1969年)とともに、知的生産論の先駆的な一冊といえるだろう。両者とも文化人類学の研究者であり、専門的な必要性に迫られて研究の方法論として考案したものなので、かなりしっかりした議論の枠組みをもっている。

KJ法の内容自体は、周知のものだろうから(でなくてもググればあらましは知ることができる)ここでは繰り返さない。今回、改めて原典にあたってみて思うのは、よく知られている「断片的なカードの操作」や図表化だけが重要なのではないという点である。

大量のデータとセレンディピティ

まず、川喜田も梅棹もともにフィールドワークという莫大な情報を(彼らの場合、集団で)あつめる方法をとる文化人類学の領域で研究をしており、そこから考案されたKJ法は「大量のデータ」を前提にしているといえよう。フィールドワークの教科書においてもよく名人芸になりがちといわれる大量の(しかもチームで集めた)データを総合する方法をこそ彼らは欲したのである。

現在の科学的方法は、分類、要約、分析には力をもっているけれども、統合するという問題に対してははっきりした方法を何も用意してこなかった。この統合と切り離せない問題が、いかにして新しいアイディアを生み出すかという啓発の道である。相互に比べることのできない異質の一組のデータから、いかにして意味のある結合を発見することができるか。また新しい発想をうちあげることができるか。ここから発想法の問題があらわれてきたのであった。データはたんに足し算したり、割り算をするだけではいけない。それらが組み合わせられて、いままで気がつかなかった新しい意味を発想させなければならない。これが発想法問題のきっかけになったのである。(p. 54)

そして、ディープな経験から得た元となるデータやアイディアと、それをもとにして作ったカードを有意味化/文脈化しておくこともまた、あらたな発想を得るのに重要であろうと思われた。

『ネット・バカ』の記事でも紹介したように、読書ノートをつけて、読書から得た断片を記憶し、無意識のうちで熟成させることによって、新たな発想の源となるその人の個性・教養が形作られる、ということがある。次の一節はこれと同様の効果を川喜田が期待していたことを伺わせる。

問題というものは、理性的に自覚的にとらえられるまえに「なにか問題を感ずる」という段階が先行しているのがふつうであろう。この日常的現象に気づくことが大切なのだ。では、問題が明確に理性的にとらえられない場合に、どうすればよいか。自分もしくは自分たちがやろうとしている問題はなにかというときには、まず自分が問題だと「感じて」いることに、「関係のありそうな」ことがらを全部列挙してみるのがよい。そして、このように具体的に外に投影した諸要素を組み立てるのである。(p. 29)

自分がこれは問題だ、関係がありそうだと直感的に感じるのも、そうしてまとめた「基本的発想データ群(basic abductive data, BAD)*1」が「まとまったヒントを暗示」し「発想を刺激」するのも(p. 104-5)、おそらく上のような無意識の領域で涵養される何ものかによるのではないだろうか。

傍証として付け加えるなら、文化人類学者の沼崎一郎による次のツイートも同様の文脈で捉えられよう。

なお、有意味化という点では、フィールドでつけるメモも、その記憶が失われない内に、ある程度まとまりをもったノート(というかカード)にすることが手順化されてもいる(pp. 39-53)。

こうして読んだ本についてわざわざブログに記事をあげるのも、上と同様の有意味化・文脈化を期待してのことであったりする。気になったところに付箋を貼りながら読み進め、読み終わったらなるべく早く文章化するように、という手順である。

フィールドでのメモにせよ、本に付箋を貼るにせよ、はたまたカードに読書メモをするにせよ、時間が経過すると、それらの断片同士をつないでいた短期記憶が揮発してしまうため、断片間の文脈を思い出せなくなる。それゆえなるべく早いうちに、あとから見て思い出せるだけの文脈、まとまりを文字化することが必要なのだ。

グループ化≒アウトライン編集

KJ法ではデータの断片を類似性・関係性にもとづいてグループ化していくわけだが、そのときに基準の最小単位となるのが「一行見出し」である。

ある程度まとまった内容を記したカードや会議の発言のひとまとまりを、内容を代表する一行の見出しにまとめ、ついでそれらを類似性・関係性にもとづいてまとめ、さらに一行の見出しをつけていく*2

これはいわば文章のアウトラインを作成・編集するのとほぼ同等の行いであるといえよう*3

アウトラインの編集は、今ではテキストエディタでも、ワープロソフトでも、専門のアウトラインエディタでも可能である。そして電子テキストは再編集も容易だ。したがって、京大カードによってデータを物理的に編集可能にしておく必要は薄い、と言えそうである。

やはり『発想法』にしろ『知的生産の技術』にしろ、1960年代末に書かれた本なので、読んで参考にする場合は、テクノロジー的な背景を考慮にいれることをおすすめする。

実際、私も一度は京大カードを運用してみたことはあるが、断片のまま処理されずにおかれて意味・文脈が失われることの方が害が大きいと感じたため、テキストファイルにある程度まとまったサイズのノートをとる方針に変更している。

現代のメモ蓄積法

なお、カード的なメモ・データの蓄積といえば現代で一般的にはEvernoteということになろう。しかしこれも上と同様に、断片ではあまり役に立たない、PCでは一覧性が低く組み合わせるのも難しい、など理由で私は使用していない。

とはいえ、まとまったノートにいたるほどではない断片的な思いつき・アイディアというのはどうしても発生するものなので、それについてもいろいろメモ蓄積は試行錯誤してみたが、検索性・一覧性・再利用可能性のいずれかの点でうまくいかないサービスがほとんどだった。

結局、ローカル/Dropbox上にテキストファイルで保存するのが一番手っ取り早いという結論に達している。TwitterGoogle+についても思い出すときにはログを直接検索すればよいし、ログにタグ付けできるブックマーク*4をしておくという手もある。

ざっとブラウズしたければテキストファイルでバックアップを保存しておくことで可能である。思いついただけでまだ試していないが、ハッシュタグのようなものをファイル末尾にでも書き込んでおけばフォルダを超えてGREPで抽出し、キーワードを共有するメモを一覧できるかもしれない。

ソフトウェアを使う方法では、scrivenerという統合執筆ソフトが英語圏では定番らしいので、縦書が不要ならこれをつかうのもよいだろう。

他に、これも筆者は未使用だが、PiggydbというEvernoteと個人wikiを足したようなものがあるようだ。メモやノートをタグづけし、それら同士をつないで文脈化するものらしい。KJ法的・リゾーム的といってよいだろう。クラウド化すればもしかしたらEvernoteにかわる知的生産ツールになる可能性もあるのでは、と期待が膨らむ。

これらの手段を使って、なるべく断片を総合し、文脈化させ、まとまった意味をあたえるのが重要であると繰り返したところで本稿を終えることにしよう。

*1:abductiveはパースの提唱によるアブダクション (abduction)に由来するとのこと(p. 4-5)

*2:余談だが作家のナボコフもカード派だったらしい

*3:図表化すればツリー上でない複雑な相互関係も表現できるが、テキスト化すると結局はリニアになる

*4:はてなブックマークでもGoogleブックマークでも